[コメント] アラビアのロレンス(1962/米)
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実在の人物T=E=ロレンスのアラビアでの活躍を描いた作品。英国人でありながらアラビアのベドウィンをまとめ上げ、巨大勢力に育てた彼の功績は、評価が分かれるところだが、その彼をあくまで冷静なタッチで描きあげた所にこの映画の面白さがあるだろう。音楽も画面に非常に合っていて素晴らしかった。しかし、この映画を語る際、最も大切なのは主演をピーター=オトゥールとした所にあることを忘れてはならない。彼のあの神経質な表情と青い目が乾いた大地に何と映えたことか。その精神と目とが見つめた砂漠のリアリズム。そして人間による(又は自分自身が引き起こした)災禍。それに同化出来た時、この映画は大きな感動を呼ぶのだろう。単なる「良作」が「佳作」となりえたのは彼の存在感だ。
実際、ここでのロレンスはアラビアの民族では決してない。だが同時に彼はイギリス人であろうともしない。いわゆる文明国と呼ばれる国のマナーを持ちつつも、砂漠のリアリズムを見つめている。それが端的に示されたのが前半では、行軍中脱落した一人を身を以て助け出すところ、そして自分自身の命を賭けてまで助けたはずの男を撃ち殺さねばならなかったところ。そして後半においては、「自由」を求めて行ったはずの事が、結果的に「死を伴う不自由」を強いてしまったところ。そのリアルな部分を、中心にいて見つめている。
劇中のローレンスは自分は何者か、その事を常に問い続けていた。革命のただ中にいる自分。停滞する状況の中、自暴自棄にさえ見える行動でトルコ人に自らの身体を蹂躙させ、自らの可能性を見ようとする行動。そして国際状況に逆らい、アラブ人のために国を造ろうとし、それが失敗した時の絶望。結局彼の目には、イギリスも、そしてアラビアも、彼のいるべきところではなかった。結局彼が後年バイクを用い、スピードの中に自分を置くことになったのは、それが理由だったのかも知れない。
そしてそれら全てを見つめる彼の目つきが非常に色っぽい。結局オトゥールの魅力とは、その目つきの色っぽさにあったのではないかな?そして、これ程その目つきが映えた作品もない。
歴史的に見るならば、イギリスはドイツとトルコに対抗するため、アラブ人とイスラエル人に対し、パレスティナを与える。と言う二股膏薬的外交を行っていた。それが現在の中東の混乱の一端でもあり、そしてローレンスの悲劇でもあった。
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