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[コメント] 魚が出てきた日(1967/英=米=ギリシャ)

原子力に警鐘を鳴らすという意味では『博士の異常な愛情』と共に記憶すべき重要な作品。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ギリシアの誇る名監督カコヤニスが作り上げた原爆を題材にしたブラック・コメディ。

 原爆と冷戦構造をベースにした作品は数多く存在する。この二つの組み合わせだけで、さらにコメディと考えるならば、なんといっても名作『博士の異常な愛情』(1964)がある。ブラック・コメディとしては本当の名作だが、テーマと言い、物語と言い、本作もそれに劣るものではない。

 ただ『博士の異常な愛情』と本作の違いは、まず完全上視点から見ていることで、登場するのは大統領をはじめとする政治家と専門家ばかり。彼らは原爆の位置からはずいぶん離れた地下でニュースを観ているだけの存在。この作品のおもしろさは、どんな状態に置かれてもヘゲモニーを得ようとしている人間の小ささを笑うもの。

 それに対し本作はほとんどの人間は太陽ふりそそぐギリシアの小島の現地の人間であり、原爆がなんだかも分かってない。その無知故に原爆を弄び、その危険性を観て笑うと言うもの。

 テーマが同じでも切り口がまるで違う。そしてそのどちらも、観ている側としては自分の問題としてそれを受け取ることができるということだろう。

 危機管理の立場にありながら、結局自分自身のことしか考えない政治家の立場であり、それがどれだけ重要なものかも知らず、ちょっとした欲張りから取り返しのつかないことをしでかしてしまう。両極端ではあっても、そのどちらも自分自身の中にあるものであり、確かにこういう反応をしてしまうであろう自分自身を顧みることで初めて笑える。だからこそブラック・ジョークたりえるのだ。危険すぎるネタだからこそ、それがうまくはまると光輝いて見える。

 本作の魅力はもちろんそれだけではない。これはカコヤニス監督らしさだが、この人は自然と人間の対比がとかく上手い。

 『その男ゾルバ』における自然は、過酷であるにも関わらず、美しすぎるものとして描かれている。そんな自然の中で人間の弱さを徹底して描いていた訳だが、本作の場合は、徹底して自然を美しく、そしてその中で本当にお馬鹿をしている人間を対比して描いている。

(評価:★5)

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