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[コメント] 海底軍艦(1963/日)

流線型ボディの先端にドリル!これこそ格好良さ!
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 監督本多猪四郎、特技監督円谷英二の黄金コンビが放つ海洋冒険大作。

 元々東宝は優れた特撮技術を用い、映画界においては特撮映画の雄となっていたが、東宝の目指す傾向は二系統に分かれていた。一つが『ゴジラ』を初めとする怪獣もので、もう一つは太平洋戦争を題材にした戦記物である。戦前から国策映画として戦争映画を作っていただけに、東宝の作り上げた戦記映画はかなりの数に上り、その出来映えはフィルムを接収した連合国から「本物ではないか?」と言われるほどの逸話を持つ。その中心にいたのが円谷英二であった。戦争が終わり、円谷は精力的に怪獣作品と戦記作品を並行して作っていった。

 そしてその二系統の特撮技術が一つに結びついたのがこの『海底軍艦』だと言って良いだろう。20年前の敗戦の痛手からようやく立ち直り、奇跡の復興を見せた日本と、それに目を瞑り、あくまで国のためを想い、20年という時間を用い轟天号を作り上げる旧日本海軍の軍人達。既に国際社会の一員として自らを位置づけているかつての上官楠見に対し、あくまで日本のためだけに轟天号を使うことを願う神宮寺。劇中盤の緊張感はここからもたらされていて、見事な描写となっている。戦後20年という時間の流れがここには感じられるのが実に良い。

 楠見はそんな神宮寺を見て、うらやましさを感じていたのではないだろうか。価値観の多様さを顧慮せず、一つの目的に対し、ひたすら全精力を使い続ける生き方に。だが、一方では神宮寺の娘マコトはそんな事は知らぬ。20年ぶりに再会した父親を単なる分からず屋としてしか見ていない。そして結果的に、正しいのはマコトの立場にある。時は確実に流れていったというわけだ。色々考えさせられるタームではある。

 本作品の主題でもあり、何と言っても最大の主役は「轟天号」だろう。先端にドリル。流線型のこの万能潜水艦の姿は当時の模型班には至って不評だったらしい。しかし、画面でのこの勇姿を見よ!あの出撃シーンは他のどんな描写にもまして格好良すぎ。絶妙のカメラ・ワークで巨大さを、そして水が割れて一気に姿を現す轟天号の姿は文句なし。(私の目から見て、「お、ヤマトだ」と思ったくらいだから、『宇宙戦艦ヤマト』自体が、この映画からずいぶんと影響を受けているのは間違いなかろう)。そして何と言ってもあのドリルよ。ドリル。これをダサいなどと言わないで欲しい。ドリルこそ全ての障害をはねのけ、突き進む象徴なのであり、これをつけた轟天号の姿こそが真なる勇者の姿よ!(一部不穏当な発言と取られるかも知れないが、容赦願いたい)。

 総じて考えれば★3の作品を★4にしたのは、ひとえにこの勇士の描写あってこそ!

 ただ、それだけ轟天号及びそこでの人間が格好良かったのに、対するムウ帝国の描写が残念。東宝お得意の半裸、暗黒舞踊、祭政一致体制と、見事にステロタイプな悪役になってしまった(と言うより、これから始まったという話もあるな)。守護竜マンダは存在感こそあれだけ大きいのに、轟天号の前にひとたまりもなかったし、地上の兵器に対してはあれだけ圧倒的な力を誇ったムウ帝国の誇る最新鋭艦でさえ、轟天号の前には敢え無く撃沈。総じて言えば、ムウ帝国は轟天号に対抗できるほどの存在感がなかった。(天本英世のイッちゃった演技は買うけど)

 劇後半部分で一番盛り上がるはずの場所において、結局轟天号の強さしか見ることが出来ず、しかも海の底だけに動きが遅い。前半及び中盤であれほど期待させた割にはクライマックスがあっさりしすぎていたのが残念だった(ウルトラセブンにおける傑作「ノルマントの使者」はこのシークエンスの流用か?)。

 ところで轟天号、ムウ帝国がいたからこそ、その存在価値があったのだが、あっさりとムウ帝国が滅んでしまった後はどうなっていくのか…国連にとってはお荷物以外の何者でもないはずのこの海底軍艦は、実はこの約15年後、再び姿を変え、その勇姿を現すことになる…それが『惑星大戦争』。なのだが、私は未見。ビデオも未だ発見できず。残念。

(評価:★4)

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