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[コメント] スターリングラード(1993/独)

ドイツにとっては最も忌まわしい戦いをドイツ人が作ったことに意義がある。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 第二次大戦東部戦線における最大の激戦地スターリングラード(現ボルゴグラード)攻防戦を描く作品。  この戦いは結構題材にされやすい。なんせ圧倒的な力を持つドイツ機動部隊に対し、補給路も断たれた一つの都市が8ヶ月の長きにわたり防衛したというものである。結果としてこの戦いこそが独ソ戦線の決着を決めた戦いと言っても良い。戦記好きには涎を垂らさんばかりの素材だろう。有名なのはアノー監督の『スターリングラード』(2001)があるが、ボンダルチュク監督の『祖国のために』(1975)もやはりスターリングラードを扱ったもので、ボンダルチュクJr.が『スターリングラード 史上最大の市街戦』を作っている。特にロシアで作られるのが多いのも特徴だろう。

 更に実際の戦記としてではなく、SF作品やアニメなどでは、これを題材にした作品は事欠かない。特に後の日本への影響がとてつもなく大きい戦いだった訳だ。そもそも「宇宙戦艦ヤマト」なんてほぼ全編このインスパイアで、そこから日本のアニメのフォーマットが作られたのだから当然とも言える。

 そう言う意味で言うなら、スターリングラードを描いた作品はほとんどが既視感を感じるものだ。

 ところが本作に関しては既視感が全くない。

 基本的にスターリングラード攻防戦を描く場合、防衛したソ連側を主人公として描くのが普通である。ところが本作を作ったのはドイツであり、戦いに敗北したドイツ軍を主人公として描いている訳だから。 

 完全敗戦を克明に描くというそれだけで拍手したくなるような作品だが、そのため全編にわたって陰鬱なイメージが続く。

 それでも前半部分のスターリングラードに突入する戦いはそれなりに盛り上がるのだが、撤退になってからの描写がもうなんというか…

 先ほど「既視感がない」と言ったが、違った。確かに既視感はあった。

 それは『八甲田山』(1977)なんだが…

 後半のあの寒さの描写は、ほとんどホラー映画の領域。敗走というマイナスイメージに加え、極寒と踏み入る真っ白いだけの空間。更に生き残るために仲間を切り捨てねばならない辛さ。それらが全部押し寄せるという恐ろしい作品である。多くの戦争映画は観てきたけど、これほど「寒い」と思えた作品はそうそうない。

 更に戦争映画として本作を観るならば、二点とてもリアリティのある描写がある。

 一つは工兵隊を主人公にしているため、戦争で重要な道路敷設や戦闘工兵の困難な任務が主な描写となっていると言う点。攻防戦の中でもその描写が見えるが、何より撤退戦での雪の中での退路確保の整備描写が際立っている。何より本作ほど戦争映画でショベルの使い方が素晴らしい作品は無かろう。かの『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997)以上だ。工兵隊の凄さと苦労がよく分かる。

 そしてもう一点が、拳銃の使い方である。

 拳銃を戦争に持っていく理由は、敵を撃つためではない。実は拳銃は味方に言う事を聞かせるための威圧と、自決のために携行するものと言われている。先に敵に対して使えるのは音で威嚇する以外の使い道はほとんど無い。専ら拳銃の銃口が向けられるのは味方か自分自身となる。

 本作の拳銃の使われ方はほぼそれに限られるため、とてもリアリティがあり、そのリアリティが素晴らしい。

 戦いを中心としてないという根本的な問題はあるにせよ、戦争映画として、とても素晴らしい出来だ。

(評価:★4)

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