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[コメント] 子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる(1972/日)

大五郎はこの作品が一番良い役だったな。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 このマンガが書かれたのは70年代で、同じく時代劇漫画である白土三平の「カムイ伝」もあった。この二作は実際まさしく時代を反映した内容になっている。

 その二作に通じるのは、徹底した権威に対する反抗である。

 「忠臣蔵」に観られるように、武士道は忠義の道であり、上からの命令は「耐え難きを耐え。忍び難きを忍び」従うのが忠義の道とされていた。

 一方70年代はパラダイム・シフトの時代であり、既存の権威を否定することから始まった。その風潮を受け、元幕府の忠臣が幕府に裏切られ、復讐鬼と化して修羅道を進んでいくというもの。武士にとって最上位にあたる幕府への反抗という内容を含むものであり、完全にそれまでの「武士道」を破壊する内容を含んだものだった。

 つまり、「子連れ狼」という漫画を映像化する際、この部分をどうするか?というのが大きな問題になる。

 ここで社会派の監督だったら、権力闘争を主題にしていっただろうし、そうでなくてもいかにしてこの部分を映像化すべきか考えるだろう(近年ようやく映画化された『カムイ外伝』(2009)はその考えの上で作られた作品でもある)。

 しかし三隅研次という監督は、その問題を見事にぶった斬った。たぶん設定の持つ重さは受け取り側が感じればいいことであり、作り手は作品を面白くすることに全力投球すればいい。そのように考えたのでは無かろうかと思う。なんせ三隅は芸術や社会派とは一線を画す職業監督であり、自分自身の出来る技術を全開で作ってやろうと考えたに違いない。

 折から70年代は東映活劇が「より派手に、より過激に」映画を盛り上げていた時代でもあり、大映もその煽りを食って、激しいアクションを中心に作るようになっていった(『座頭市』であれ『眠狂四郎』であれ、年代が進むとどんどん過激な描写が増えていく)。そうなると東宝としても上品なものばかり作ってられないので、その方向性は大歓迎。他の会社では出せない巨額な予算を組んで、好き放題やらせてみたのだ(実は本作のスタッフの大部分は三隅監督と長年組んでやってきた大映からの出向)。

 三隅研次が見事にその期待を受けて作った結果、本作は大成功。派手さ過激さは他の時代劇の追従を許さず、日本国内はおろか世界中で(主に好事家によって)受け入れられた作品ができあがった。

 一応基調には差別や階級制度破壊の雰囲気を持ちはしても、それについて語る人はほとんど誰もいない。リアリズムを排除し、より派手により残酷に、その部分だけで語られるような作品になった訳である。大映にあった固定カメラやショットの映えさえもすっとばしたため、水を得た魚のようだ。まさしく三隅監督が国際的な監督になったのは、本作によってである。

 その第一本目となった本作だが、一言でいえば「大五郎がこども」というのに尽きるのではないか?

 物語の過激な部分は父の拝一刀が全て引き受け、叙情的な部分は大五郎が一手に引き受けた。

 大五郎はなにも知らない幼児であり、ただ父の意地に巻き込まれた可哀想な存在であることを強調するため、最初に母の乳房を求めるように、父の試しで命を長らえたように、不憫な存在として描かれていた。

 この対比のおもしろさこそがこの第一作の最大の魅力であり、過激な戦いの生活の中にある幼い大五郎の受難の日々を思い、過激な世界の中で生きざるを得ない大五郎と、一刀の対比を観るのが本作の最大の見所と言えるだろう。実に興味深い。

(評価:★4)

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