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[コメント] 戦争と人間 第2部・愛と悲しみの山河(1971/日)

戦争シーンは派手に、しかし反戦映画として。モンタージュ技法の教科書的作品。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 第一部があくまで戦争前の、まだ平和な時代に日本が不穏な時代へと踏み込んでいく中、正義感の強い主人公の思いに終始していた感じだった第一部から随分派手になっている感じ。

 第二部は二・二六事件から満州事変までの時代に入って歴史が大きく動き始めている。一気に軍拡へと向かう日本の中、青年らしい平和を求める主人公の挫折が物語のメインとなる。

 激動の時代、日本が進んでいく道を描きつつ、その中で一個人が出来ることとは何だったのか?という問いかけが描かれていくことになるのだが、国も世論も戦争一直線に向かっている時代に平和を叫ぶという、主人公俊介がしていることはまさに蟷螂の斧と言っても良い。俊介の言っていることは平時においては確かに正しい。しかしいくら正しいことを言ったとしても、この時代の体勢にはそぐわず、ほとんどの人は俊介の言うことを間違っているとして、誰もそれを聞こうともしない。

 正義や正しさなんてものは時代の移り変わりで変わっていくものだ。それを丁寧に描きつつ、それでも、時代に流されることのない普遍的な正しさとは何か?その事を伝えようとしているようでもある。

 本作で面白いのは、そんな青春の夢を追いかけている主人公を置いてけぼりにして、戦争のシーンがとても勇猛に描かれているところ。仮にこれを再編集して主人公を除いて作ったら、とんでもなく好戦的な作品にも見えてしまうという点だろうか。爆薬と特撮を駆使して描かれる戦争風景は実に見応えある。

 逆に言えば、主人公の存在がそれだけ重要だと言うことでもある。俊介が戦争反対を叫んだ直後で勇猛果敢な戦争風景が描かれる。これによって時代に逆らう一人の人間の無力さを徹底的に告げ知らせ、痛烈な戦争批判にされているのだ。これはまさしくモンタージュ技法の最も重要な点であり、この大作で存分にそれを使いこなす山本監督の実力をよく示したところだろう。

 ところで俊介のやってることは、時代に反することであり、それはことごとく挫折していくことになるのだが、これを「青臭い生き方」ということは簡単だ。でも、この生き方はある意味とても幸せなのかもしれない。正義のため自分がすべきことは山のようにあって、挫折があってもそれを乗り越える気力は尽きず。自分に力があると思ってる人間にとっては、平穏な世界よりも疾風怒濤の時代に正義を貫けるような、そんな生き方は一種のあこがれと言っても良い。

(評価:★4)

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