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[コメント] 人間の條件 第1部純愛篇・第2部激怒篇(1959/日)

良心あれば良いという訳ではないという人間の現実…なんか切ないです。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 映画全般を通してみるとその大部分は泥沼の日中戦争での戦いが描かれているのだが、この第一部と第二部は主人公が戦争に行くまでに起こったことが描かれている。戦争という異常事態の中、その中でヒューマニズムを貫こうとした男の姿が描かれているのが特徴で、舞台が軍隊でないだけに少しは自分のことを分かってくれる人もいたりして、主人公が完全に押しつぶされている訳でないので、ヒューマンドラマとしての質も高い。

 実地体験を元にした。というだけあって、分かり合えない人間同士の描写はかなり濃い。

 梶は本当に真面目で、ある意味人間の良心を信じているのだが、どれほど彼が誠意を尽くそうとも、儲け第一に考える会社は愚か、労働者にまでも不審な目で見られてしまう。  確かに理想を言えば、雇用者と被雇用者の関係は対等であり、そのどちらにも納得のいく形で労働条件が定められれば素晴らしいだろうが、実際現実世界での仕事でそんな事は滅多にない。雇用者の方が圧倒的に優位に立ち、押しつけられた労働条件で働くしかないのが現状である。現実だってそうなのだが、ましてやここは戦地。大多数の住民に対し、ほんの一握りの日本人が治めている場所である。

 この辺は少数の貴族が大多数の農民を統治する構造によく似ている。労働者に反乱を起こされるとそこにいる日本人全員の命が危なくなるため、労働者はなるだけ疲れさせ、反抗の気持ちも無くしてしまうのが一番の統治法なのだ。下手に人道的な行いしてしまえば、自分の首を絞めるは愚かそこにいる仲間の命まで危なくさせてしまうのだから。雇用者の方だって命がけなのだ。

 そのTPOを完全に無視して人道主義を語る主人公は、はっきり言えば危険分子である。会社としては彼の存在そのものが胡散臭いものでしかない。

 そして一方では、そんな日本人が手をさしのべても住民からは全く信用されないという現実もあり。日本人だからというよりも、やっても無駄なことを勝手に理想論で喋るな。と言う感じだ。実際住民側にもかなり狡猾な人物がいるのもリアルだ。

 結局双方から理解が得られることなく孤立していくしかない。

 この現実を冷静に描いているのが本作の特徴だろう。ここまで救いようのない物語に仕上げるとは思ってもみなかったので結構唖然。きついけど観ていて良かった。

(評価:★4)

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