コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] にっぽん昆虫記(1963/日)

レビューしておいてなんですが、私の筆力には余るようです。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 1963邦画興行成績1位。1963年公開では『天国と地獄』と評価を分け合ったと言う、ある意味この時代の邦画を代表する作品。

 たまたま上京時に『豚と軍艦』(1961)と併映と言うことで拝見。今村昌平監督の作品というのは、何を観ても、ジャンルが特定できない。コメディあり、淡々と人の生活を描くものあり、エロチック路線あり、そして本作のように激しすぎる人間の生を描くのあり。特に本作は監督のフィルモグラフィの中では代表作の一本に挙げられるはずだが、それに固執することもない。一言で言ってしまえば、現在に至るもチャレンジャー精神を決して失わない監督であり、その姿勢には頭が下がる。

 本作は説明が難しい。何せ現時点で私には監督の視点が見えないのだ。一人の女性を描くことで雑草のように生きる庶民を礼賛しているのか、それともその生き方に嫌悪を覚えているのか…突き放したような視点で描かれる本作は、形は随分違っているとしても、これも和製ヌーヴェル・ヴァーグの一つの形なのかも知れない(事実自分の父親に乳を含ませるシーンは、トリュフォーに多大なショックを与えたと言われている)。少なくともはっきりしているのは、本作は無茶苦茶なパワーを持っていると言うことだけ。  結局私はこのパワーに翻弄されっぱなしで、圧倒されたまま観終えてしまい、今に至るも本作をどう扱って良いのか考えあぐねてる。これはコメディだと言ってしまえるし、風刺とも言える。精神的なホラーとさえ言ってしまえる作品としか…ただ、これだけ性描写が多い割りにはエロチックさは何故か感じなかったな。

 敢えて説明を付けるのならば、本作の主人公のとめは、本当に虫の生態そのものってことなのか?彼女はただ生きようとしていた。人間にとって最も根源的な欲求を満たすために。

 その生きようとするパワーは一人だけの世界なんだな。娘に対しての態度は最初から一人の他人に対する態度のようだったし、彼女ほど、生まれ落ちた瞬間から、人間は一人で生きていくものだと言うことを認識していた人間はいなかっただろう…ただ、それを更に極端にしたのが娘の方だったというのが皮肉ではあるんだが。

 そう言えば今村監督の作品にはやたらエロが多いんだけど、何を観てもイヤらしさというのはあんまり感じない。性というものに対し、人間の営みの一つとして突き放した立場に立っているからだろうか?

 少なくとも、今のところ本作をきちんと評価できる立場には私はいないようだ。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)ペペロンチーノ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。