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[コメント] スター・ウォーズ 最後のジェダイ(2017/米)

これまでの神話の世界を全否定。人間の世界へと足を踏み入れた記念すべき第一作。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 スター・ウォーズの頂点と言えるのはオリジナル版の旧三部作だが、これは監督のジョージ・ルーカスの強い意向を受け、ユングの世界観をベースに世界各地にある英雄譚のフォーマットを用いたものとなった。そのため主人公のルーク・スカイウォーカーは最も新しく誕生した神話の主人公となり、スター・ウォーズも映画を超えた普遍的な物語として受け取られるようになっていった。

 映画として空前絶後の成功例となるのがこの三部作になった。

 その後、その三部作を補完する形で新三部作が作られることとなった。物語としては旧三部作ありで、それを補完することと、前史を作ることで物語に隙間を作り、スター・ウォーズのいくつもの物語を提供する役には立った。

 その後実に10年も経ってようやく『スター・ウォーズ フォースの覚醒』(2015)が作られ、最新三部作の幕開けとなった。

 『フォースの覚醒』の評価は演出はとても良いものの、正直「なんで焼き直す?」というのが疑問点だった。これではキャラを変えただけのリブートに過ぎず、『スター・ウォーズ』(1977)そのもののストーリーをトレースしてどうするんだ?そんな疑問ばかり残る作品だった。

 だが、そこら辺は飲み込むべき所だろうと思ってたし、そもそも前作監督のJJの実力はこんなものだ(誤解を招く表現だが、JJは最高レベルのトレッキーのため、スター・ウォーズに関しては思い入れがないのが最初から分かってた)。

 だから続編である本作こそが本当の意味で新シリーズの幕開けであろうと思ってた。

 さて、それで本作だが、確かにこれは新しい幕開けにふさわしいものと言える。

 本作の新しさとは、旧シリーズの全否定であること。その一点に尽きる。

 旧三部作の大きな特徴は、前述したとおり、世界各地に残る英雄譚から様々な要素を抜き出して作られていることだった。主人公であるルーク・スカイウォーカーは神に次ぐ英雄として存分にその力を振るい、神話の時代を彩っていった。

 神々の時代は終わり、英雄の時代へ。それが旧三部作の立ち位置となる(実はこの論理から言うならば、新三部作は「神の時代」を描いていないとおかしいのだが、見事にそれに失敗してる)。

 そしてその英雄を描ききった後の話はどうなるのか。

 それは人の時代へと移ることになる。

 かつて世界に干渉していた神は見えなくなり、やがて英雄もその任務を終えて退場する。そして残されるのは神話の記憶を引き継ぐ人間となる。

 まさにそれを行ったのが本作の特徴だった。

 前作最後にルーク・スカイウォーカーさえいれば今の世界を変えられると言い、レイはルークを迎えに行った。

 だが実際に世界を変えたのは誰だったか?

 それはジェダイでもシスの暗黒卿でもない。カイロ・レンという新しい人間だった。彼は元々はダース・ベイダーの孫として自らも暗黒卿となろうとする野望を持っていたはずなのだが、ダース・ベイダーのリスペクトである仮面を早々に破壊し、新しくカイロ・レンという個人でこの世界に立ち向かおうとする。

 そして彼が選択したのは暗黒支配による統一ではなかった。

 彼が作り出そうとしたものは、神による、あるいは英雄による統一ではない。その時代は終わった。残されたのはより人間的な混乱。カオスの世界だった。その試練として強大な力を持つニューオーダーの指導者スノークを倒し、更に旧世代の異物として最後のジェダイ、ルーク・スカイウォーカーを殺そうとする。彼が作ろうとしたのは、人の時代であり、カオスだったのだから。

 それを象徴するかのように、本作では英雄は登場しない。英雄に近いとされた二人のうちカイロ・レンは自らが英雄となる道を閉じ、世界を混乱に叩き込む。そしてもう一人のレイは、自分を英雄としてではなく、他の多くの人々と共に戦う一兵士として自らを定めた。

 その結果、より多くの人々が人間としてこの世界に関わるようになっていった。それは前作にも登場したフィンであったり、ポーであったり、そして今回から登場するペイジであったり…英雄とは人間の中から意思あるものがなるものであり、それは誰にでもなり得るものとなっていったのだ。

 既にこの時点でフォースは不必要。正確に言うなら、「フォース」という概念さえ生きていれば良くなった。

 カイロ・レンによってもたらされた混乱。だが人の心にフォースがあるなら平和を作り出していく事が出来る。

 これまでのテーマは悪からの自由という分かりやすいものだった。それに対し、これからは自由という名の混乱状態と、平和的秩序の対立へと移行していくことになる。

 これはスター・ウォーズ・サーガの転換点であると共に、多くの可能性をばらまくことになる。

 これによって、スター・ウォーズの世界は「こうでなければならない」ものから、どんなストーリーも受け入れられるものになったのだ。

 それはより単純なスペースオペラに堕したという一面と、より大きな可能性を秘めた物語になったということになる。

 本作の評価が真っ二つに分かれたのはまさにここにある。

 旧来からのスター・ウォーズファンにとってみれば、スター・ウォーズ・サーガとはある種固定化された様式美の世界観であり、その枠内で物語は展開して欲しいという願いがある。そう言う人には本作は受け入れられない。神話的意味合いを失ったスター・ウォーズは魂を失ったと思われてしまう。

 しかし一方、スター・ウォーズ世界の広がりを考えるならば、自由物語を作れるようになったと言う事なのであり、当然これは歓迎すべき事なので、諸手を挙げて歓迎する人もいる。

 そんな意味で本作は旧来のファンに対する試金石のような役割を果たしている。

 一応次の作品で一つの幕は下りるだろうが、ストーリー的にはどんどん新しいものが作れるようになったことから、キャラを変え星を変え、いくらでも作れるようになっていくことだろう。

 そしてそれはおそらく歓迎すべきものなのだ。

(評価:★4)

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