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[コメント] オリエント急行殺人事件(2017/米)

ルメット版と並べて観れば、確実に本作の方に軍配は上がる。だが本作では物足りなさを感じるのも確か。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 アガサ・クリスティ原作の傑作推理小説の二回目の映画化。

 最初の映画であるシドニー・ルメットの『オリエント急行殺人事件』(1974)はオールスターキャストが売りで、実に評価が高かった。

 私もその点は評価するのだが、演出上少々間延びするのが難点。今にして思うと、なんでルメットに監督させたんだ?という気がする。

 それに対し、40年ぶりにリメイクされた本作は、同じくオールスターキャストで、更に演出に隙がないものに仕上げられていた。

 現代となってはやや短めの2時間程度の時間に収めるためには演出を詰め込む必要があったのだろう。全然飽きが来なかった。

 おかげで演出・人物共に素晴らしく、物語は言うまでもない。ほぼ理想的な物語になってた。

 …なってたんだけど、なんだろう。ルメット版と比べて気持ちが今ひとつ盛り上がらない。

 その理由を考えてみると、二つの理由が思いついた。

 一つにはこれが原作を忠実に映画化したと言うより、ルメット版のリメイクになってるということだった。ルメット版はあの小説をどう映像に落とし込むのだろう?という期待があったし、それを裏切らない出来だった。

 対して本作は一度映像になってる作品がある分どうしても分が悪い。特にリメイクならば前作より演出は良くなってないと文句言われるし、オチも分かっている以上、某かのプラスアルファが欲しい。贅沢な望みである事は分かるけど、後発作品に期待することはそこだろう。

 だがブラナー監督にそこまでのサービス精神はない。完璧な演出止まりである。

 もう一つはやはり演出に関すること。

 この作品の演出はほぼ満点である。演出にほとんど無駄がなく、かゆいところに手の届く演出を楽しむことが出来る。

 だが満点の演出というのは言い換えれば余裕が無いと言うことでもある。ルメット版にあった溜めというか間延びした演出が、今になって観ると結構演出上の緩急を付けるのに役だったように思えてくる。そういった遊びの部分が無いため、ギチギチに詰まった印象を受けてしまう。

 もう少し余裕のある演出を観たかったかな?

 まあ、この二つは贅沢な悩みには違いないし、本作単独で言うならば、大変優れた作品でもある。

 総じて言うなら、ルメット版に思い入れのある人には本作はあまり評価されないだろうという所だろうか。

(評価:★4)

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