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[コメント] ワンダーウーマン(2017/米)

大成功と言って良いが、それは過大評価ではない。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 わたし自身があらかじめ考えてたのは、本作はこの後に来る『ジャスティス・リーグ』(2017)への布石に過ぎず、無難に作って本命を引き立たせようというものだった。想像するに、企画時点では実際にその通りだったんじゃないかと思う。ジェンキンス監督の起用にしても、女性主人公の作品だし、どうせつなぎだからと言う事で女性の監督を使ってみようというのに過ぎなかったような気がする。

 ところが蓋を開けてみたら、とんでもない化学変化を起こしてしまった。『ジャスティス・リーグ』を待つ必要なく、本作単独でこれまでの数あるヒーロー作品に比肩できるだけの硬度を持った作品ができあがったのだ。

 わたし自身にしても、当初は観る気にもならなかったのだが、アメリカであんまりにもヒットしたと言う事で俄然興味が湧いて観に行ってきたのだが、実際期待度を超えた見事な作品になっていた。

 まず女性ヒーローを添え物や際物として描かなかった事。ストレートなヒーロー作品として仕上げているのがとても好感度が高い。

 これまでにも数多くの女性を主人公にしたヒーロー映画はあったが、殊更セクシャルな意味での女性を意識させるものが多かった。

 女性らしさを強調するのは売りの一つに過ぎないのだが、殊更そればかりを強調させる作りはあざとすぎてあまり楽しいものではない。そう言う作品は名目上はヒーロー映画であっても実質的にはヒロイン映画である。近年になってそういう意味でのセクシャルさが少なくなったのは喜ばしい事なのだが、女性である事を強調しすぎてやっぱりどこかヒロイン映画という意識を持たせてしまう。

 本作はそこからの脱却を考えていたのだろう、男視点から見てのセクシャルさはほとんど無く、ひたすら強いヒーローを描く事にした。

 ダイアナは揺れる事がなく、基本的に最初から最後まで性格が一貫している。暴走と思えるところも多々あるものの、神から選ばれて世界を救うのは自分であると言う立場に立ち、そこからぶれないし、そこに色恋沙汰は介在しない。彼女にとって初めて見た男スティーブは(肉体関係があろうと無かろうと)、同志であり、世界に自分を合わせる先生である。

 最終的に全てを選択するのは自分自身という揺るぎない価値観があるからこそ、ダイアナはヒロインにはならない。あくまでヒーローである。

 これは主人公にガル・ガドットというあまり知られてない女優を起用した事も大きい。モデル出身とは言え、大柄で均整の取れた筋肉質な彼女はこれまでの基準から観て、セクシーさはあまり感じられない。

 だがあの肉体の躍動美はこれまでの「美しさ」の概念を変えている。ヒーローとして美しさを感じる存在である。彼女の動きは重厚で肉体の重みを感じるのだが、一度動くとしなやかに彼女の躍動美あってこそ、本作は本当に美しさを持ったものとなった。特に後半の塹壕戦は、まさに女神降臨である。素晴らしい。

 ヒーロー映画でありながら、美しい女性を描いた。それが本作の大きな特徴であった。似たような作品はこれまでにもあったとしても、ここまで徹底してこの二点に集中した作品は初めてだ。

 そしてもう一点が、現実の女性の立場というのをちゃんと認識しているということ。

 ジェンダーとしての女性の立場というのは、どうしても弱くなる。現在は大分女性の社会進出も増えているが、本作の舞台は第一次大戦である。基本的に女性は戦争には出さないか、出したとしても後方任務に押し込められる存在であったものを、敢えて最前線で戦う戦士として描いた。そのために生じる軋轢も含め、女性が働く事の困難さ、女性の弱い立場まで含めて最大限描こうとしている。この点をあまり強調しすぎると物語のバランスが崩れかねないため、かなり端折ってはいるにせよ、その意識もちゃんと残されており、ちゃんと女性であると意味合いが出ている。

 なんでもこれは原作に準拠したものらしく、原作コミックはフェミニズム運動を応援するために作られたものだったとかで、その辺がちゃんと意識されているのが良しである。

 映画史上、重要な位置づけとなった本作ではあるが、物語自体は些か単純。

 正義感溢れる主人公が悪を滅ぼすために戦い、本物の悪を倒す。実際ストーリーフローはこれだけである。脇役の人物は色々ダイアナに助言もするのだが、ダイアナ自身がそれを聞かずに突っ走るため、物語はとても単純。

 それで観終わった直後は「なんでこんな単純なものにした?」と呆れたのだが、少し時間が経過してその考えは改めた。

 本作は本作単体として考えてはいけない作品なのだ。本作のフローは単純で良い。しかし、彼女の取り巻く状況は彼女が思ってるほど単純ではないのだから。

 一見本作では悪の本体アレスを倒して地球の危機は終わった。めでたしめでたし。に見えるのだが、物語は終わってない。もっと違う悪が形を変えて地球を覆おうとしている。

 実はそこが重要だったのだ。この作品では単純に善悪について描いた。だが、悪の首領を倒せばそれで全てが終わるのかというと、全くそうではなかった。それまで突っ走っていったダイアナもそれに気づいてしまったのだ。

 自分がなすべき役割はまだこの地上で残っている。それは究極の悪を探す事かも知れないし、この世界をよりよくする事なのかも知れない。

 だがそれは明確には分からない。

 だからこそダイアナは今も現実世界に留まっているのだ。自分がこの世界に来た使命を全て終え、故郷に帰るその時まで彼女は戦い続けているのだ。

 彼女なりに本当の悪を倒すまで任務を終える事はないと思っているのだろう。だからこそ『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』や、これから展開していく『ジャスティスリーグ』への参戦がある。

 彼女と悪との戦いはまだまだ続く。だからこそ単体では単純な物語が大きく膨らんでいくのだろう。

(評価:★4)

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