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[コメント] ムーンライト(2016/米)

脚光浴びること無くひっそりと上映されていれば上質のカルト映画になれただろうに。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 作品自体画期的な作品だとも思ってる。

 作品としては、内向的な性格で、自分の性的指向に悩む男の、少年期から青年期に至るまでの多感な時期の悩みを描くもの。それを中心とするが、貧しく複雑な家庭環境や、麻薬に関する付き合い方、いじめ問題も内包する盛りだくさんの内容を、けだるげな演出で作り上げたものとなる。リアリティに溢れた作りはとても好感が持てる。

 何よりこれをアフリカ系の監督が、アフリカ系の役者ばかりを集めて作ったと言うことが最も画期的な部分とも言えよう。

 アフリカ系のスタッフやキャストを集めて作られた作品は結構多いが、世界的に紹介されるメジャー作品のほとんどは二系統に分けられる。

 一つはいわゆる過激なアクションを売りにするブラックスプロイテーションの系譜。ブラックスプロイテーション自体は当のアフリカ系の人々からの批判を食ってしまう結果となったが、その過激さは広くファンを持つ。

 もう一つは民族の確執の方向性に行くもの。これは過去から多くの作品が登場しているし、アカデミーノミネート作品も多い。近年では2013年のオスカー作品『それでも夜は明ける』(2013)はその系譜に入るだろう。

 概ねこの二系統で語られるばかりのアフリカ系映画だったが、そこに一石を投じたというのは画期的と言えるだろう。もっと早くこう言ったものが作られて然りだと思うが、やっと出てきたか!という感じとなった。特にアフリカ系による性的マイノリティを描くのは、他に記憶が無い。

 主人公は内向的な性格であり、うつむいて台詞もほとんど喋らない。薬物中毒の母親の極端な愛憎を受けてる時も、愛を受けても憎しみを受けてもうつむくばかり。イジメに遭ってる時も何も言わずにじっと耐えるばかり。ほとんど喋らない主人公の表情の仲から、精神的な葛藤や決意のようなものを読み取らせようという微妙なセンスで展開する物語となる。物語を三段構えにして、それぞれの年代における思いを描くのもユニークな視点。

 これまで作られてこなかったという強みがあり、それがオスカーを得た理由となるのかとは思う。

 ただ、画期的とはいうものの、内容自体はさほど目新しいものではない。民族の壁を取っ払って考えるならば、せいぜいミニシアター系の小品で終わるような作品である。これまでこの手の作品は山ほど出ているし、この作品自体映画的な興奮もほとんど覚えないままに終わってしまった。なんか不完全燃焼で終わってしまったような気がして、観終わってとても感情的にモヤモヤしたものを感じてしまう。ここまでメジャーになるべき作品ではなかったというのが正直な感想だ。

 こんな投げっぱなしでは啼く、すっきり終わらせて欲しかった。少なくとも物語性とか演出、ラストシーンの展開に至るまで『ラ・ラ・ランド』の方が上を行っていたとは思うし、よくこんな作品を発掘して、アカデミーまで持って行ったということの方に感心してしまう。

(評価:★3)

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