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[コメント] ラ・ラ・ランド(2016/米)

夢を叶えることとは…
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 出来そのものには大満足。オープニングの交通渋滞をミュージカルシーンに変えてしまう演出から始まり、力一杯踊るシーンや、ブルース調、ジャズ調、タンゴ調と、しっかりメリハリをつけたミュージカルシーンの数々は見所が多く、ストーリーもちゃんとひねりを加えてほろ苦い大人の恋愛を上手に仕上げてくれている。

 キャラ良しストーリー良しダンス良しと、非の打ち所のない見事な作品だが、やはり圧巻はダンスシーンとなるだろう。

 圧巻のダンスシーンこそが本作の身上だが、圧倒的な凄さというのではなく、どこかで観た感じ、懐かしさというものを感じさせるのが巧さだろう。

 本作のダンスシーンだが、基本的に上手く構成はされているものの、どれも目新しくはない。ただし目新しくはないが、実に様々な年代のものを上手く取り入れている。

 ハリウッドではミュージカルは継続的に作られているが、年代によって流行り廃りがあるため、どの年代にも個性がある。例えば50年代の一対一の社交ダンスのようなもの、一人で踊るタップダンス。60年代の絢爛豪華な集団ダンス。70年代の個人の技量を徹底的に前に出すストイックなダンス。80年代の底抜けに明るい野外の集団ダンスと、一人でエンターテインメント性を目指したもの。90年代のしっとりした一対一の様々な要素を取り入れたダンス、2000年代のアクロバティックなダンス。どれもこれも様々な個性があるのだが、本作はそれらのほとんど全てを網羅してダンスシーンが作られているのが特徴とも言える。その辺の使い方が本当に上手い。

 結果として、時代を先取りすることによって時代を代表するミュージカルとはなり得ない作品ではあるものの、どの年代でミュージカルを楽しんだ人にとっても楽しめる作品になってる。

 その意味で、目新しい個性よりも、一つの作品の完成度の方を優先した作りを支持したい。

 ストーリー面は様々なところで『秒速5センチメートル』(2007)の関連が語られているようだが、確かに似ているところもあるとは思う。

 でも本作の場合は、センチメンタリズムよりももっと現実的な意味があるようだ。それこそ『秒速』との類似が見られるラストシーンだが、ここでミアとセブが分かれていたことが唐突に示されるのだが、これは単に性格の不一致で別れたとかではないのだろう。

 ミアとセブの二人には大きな夢がある。そしてお互いの中にある夢を見いだしたからこそ惹かれ合っていたし、二人の夢はラストで叶えられる。だけどその過程を考えてみると、セブもミアも、相手の夢を叶える為にどこかで自分の夢を妥協しようとしているシーンが散見できる。それは例えばジャズの新解釈をするバンドにセブが仲間として入るのは、本来自分の目指すべきところとは異なっても、ミアの演劇の応援をする為にはそれが必要であると思ってのことだし、ミアを最後のオーディションに連れ出す為には、自分の仕事を完全無視して応援に駆けつけているシーンもある。

 ミアであれセブであれ、もし自分の夢を優先するならば、パートナーはその夢を一緒に応援してくれる人でなければならないはずである。そして二人は個別に夢を持っている以上、恋愛か夢のどちらかをあきらめねばならない。結果として二人は別れることで一人一人の夢を叶えることが出来た。

 更にラストでミアは無事結婚して子どもも出来ているが、その際の夫というのが、基本ミアを第一に考えて行動してるようにも見える。何も説明はされてないが、大女優となったミアに対し、子どもを育てる側に入っている、いわば主夫のような立場にあるような存在に見える。これはつまり、ミアの夢に対して全てを応援できる存在だからミアと一緒にいられたと解釈することが出来る。

 つまり、ミアとセブが別れるのは必然なのである。

 ミアには夢があるし、セブにも夢がある。その二人の夢は、一緒に夢を語り合う分には問題ないが、お互いを支えることは物理的に出来なくなることは必至なのだから。

 全てが手に入る訳ではない。だけど努力すれば愛と夢のどちらかは手に入った。ラストシーンの「もし…」という流れは、夢ではなく愛を追いかけた場合のシミュレーションだったと見ることもできるだろう。

 故にこそ、現実のほろ苦さって奴を感じさせる物語になっており、それが本作の真の良さになっているとも言える。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)プロキオン14[*]

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