[コメント] クレオパトラ(1963/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
壮大な歴史絵巻。
特にローマ史は私にとっても思い入れが深い。ローマ史を学ぶのは一種の趣味であり、そのお陰で学校の卒論もローマ史で書かせてもらった(尤もそれはこれから3世紀程後の話を書かせてもらったけど)し、歴史のみならず当時の風俗とかについても思い入れが深い。ただ弊害として、この時代を扱った映画を観ると枝葉末節ばかりに目が行き、下手すると肝心なストーリーよりそちらばかり見てしまうようになってしまったと言う問題があったりするが…(この時代を扱った映画で風俗や設定まできちんと作られた傑作と言って良いのは『スパルタカス』と『ベン・ハー』くらいで、後は設定的に無理があったり、ローマの社会風俗を全く知らずに書いてるとしか思えないものばかり。殊に『グラディエーター』は酷かった)。
いくつかのローマ史の本を読んでいると、面白いことにこの映画を引き合いに出す事が多い。それだけ有名な映画と言うこともあるが、その多くはかなり好意的に書かれていた。
それだけ本作はしっかりした歴史認識に立って作られている。私の目から見る限りでは、不整合は気にならない程度。他の同時代を扱った作品と較べると可愛いもので、その点は実に見事な出来だ。
ローマ史において、この時代はまさしく歴史の転換期に当たる。しかもたった一人の英雄によってローマは強制的に変えられようとしていた。その英雄の名こそがカエサルだった。長い間共和制にあったローマを帝政へと変える足がかりを作り、自ら行程の道を歩みだそうとしたその矢先に殺されてしまう。彼の存在そのものがドラマであり、そして彼ほど後年の歴史家が愛した者はいない(彼に比肩するのは恐らくナポレオンとヒトラーくらいだろう)。ただ、我々の知ることの出来るカエサルの姿はシェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」の歪んだ姿であるのが普通。
この作品は物語上ではなく、歴史上のカエサルの姿に近い。そう言う意味では非常にリアルであり、カエサルやアントニウス、オクタヴィアヌス(アウグストゥス)と言った歴史上の人物が上手く配されていた。これに関してだったらいくらでも書けそうだが…止めておこう。
ただ、それらをまとめる主人公役のテイラー演じるクレオパトラがどうだったか…たしかに貫禄あり、史実にもかなり忠実なんだけど…なんか妙に魅力が少ないというか、何というか。これだけ魅力あるキャラクターを使っていながら、なんでこんなに退屈なのか。不思議と言えば不思議なものだ。
とにかく人とセットをふんだんに用い、それを非常に派手に使ったのがハリウッド風。しかし、この映画は興行的には失敗し、20世紀フォックスは多額の負債を得ることになる。下手すれば倒産の憂き目に遭った可能性だってあったそうだから、どれ程の金が用いられていた事やら…
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (4 人) | [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。