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[コメント] シュガー・ラッシュ(2012/米)

物語の作りは「ほぼ完璧」と言ってしまえる出来。だけどその完璧さがこの作品の弱点でもある。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 常に新しいテーマ作りを試みを続けているディズニーによる最新作。今回はなんとゲームキャラをモティーフにしたもの。私くらいの世代になると、もはやオールドゲーマーになるが、こういうマニア心をくすぐる設定は大好物だ。ディズニーの作るアニメだからたぶん質も高かろう、と勝手に考えて劇場へと向かった。

 出来については、予想通り実に良いものだった。上映時間はかなり短めなのだが、ここに過不足無く必要なものを詰め込んでいる。単純な性格に見える主人公の複雑な内面描写、交流を通して芽生える優しい心の課程。仲間達との反発と連携、そして世界の危機に対するトリッキーな解決方法。これらを一つ一つ際だたせつつ描写し、そこにいくつかの伏線を絡ませ、時に「あっ」と言わせる。実際物語だけで言えば、ほぼ完璧と言っても良い作品。しかもそこに心くすぐるゲームキャラを絡ませる事で、それこそ大人から子どもまで、一般からマニアまですべてを楽しませようという姿勢が見て取れる。何というか、観ている間はとにかくハッピーな思いにさせられる作品である。演出においてもゲームの中それぞれに個性があって、時にポップで、時にクラシックで、時にモノトーンで、と、それぞれに合わせた演出がしっかりとれていた。

 私なんぞは80年代から90年代くらいのゲームにどっぷりはまった口なのだが、その時代に登場したキャラもわんさか出てきており、モブシーンとかで懐かしのキャラを見かけるだけでも嬉しくなってきた。

 その意味では、ほぼ文句の言いようがない作品でもある。

 それでも減点対象となるのは、強いて言えばその完璧さによるもの。

 物語上の完璧さとはつまり、隙がないと言うこと。そして隙がないというのは、あまりに幅が狭い。

 ピクサーが『トイ・ストーリー』を作った時、「これは本当に完璧な物語だ」と思わされたものなのだが、その主人公ウッディーは完璧にフォーマット化された。即ち、表面上はともかく、その内面にはちょっとした嫌らしさが見え隠れしており、自分の利益を最優先する。周囲のキャラもそんな主人公の性格を知っていくにつれ離れてしまうのだが、ちょっとした出来心で最悪の事態を招いてしまった主人公が改心して、最後はハッピーエンドにもっていく。ちょっとした悪を心に持ち、欲望を最優先してしまうキャラを主人公とするこの流れは、そのまま『バグズ・ライフ』(1998)や『カーズ』(2006)と言った物語にそのまま流用されるようになった。

 その洗練された物語が本作であるとも言えるのだが、逆にパターンが見えてしまい、次の展開が大体分かってしまう。いや、観ている間はそんなことも考えずに楽しめるのだが、観終わった途端に「あれ?どこかで観たような?」という疑問が浮かび上がってしまう。それで、「ああ、ラルフって、結局ウッディ/マックィーンなんだ」と思わされるにいたり、これは全然新しさのない物語なのだと言うことを思わされてしまうわけだ。

 『トイ・ストーリー』から始まった新しいタイプの物語も、使い古されてしまったことがちょっと寂しい印象を受ける。

(評価:★4)

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