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[コメント] ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q(2012/日)

庵野はやっぱり成長してる。だけどこの作品は僕は嫌いだ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 かつて中途半端に終わってしまったシリーズにケリをつけるべく、10年を経て新編として作られた新劇場版。その一作目はTV版のリメイクとして、二作目は積極的にTV版を肯定的にとらえることによって、古くからのファンに新しいファンを重ねることに成功していった。

 特に2作目の出来は90年代作品をきちんと新世紀に合わせてくれたことで評価は高い。これが新世紀における「エヴァ」の新解釈。それでいいではないか。そんな風にも思えていた。

 それで3作目であるが…

 何というか、「流石庵野」と賞賛すべきか、それとも「またやらかしたな」と言うべきか…

 確かにこの鬱展開こそ「エヴァ」ではあるのだ。庵野監督が作家性をむき出しにして、人間否定とドラマツルギーそのものを破壊しようとして作った、本当にこれこそ「エヴァ」としか言いようがない。

 それを肯定するか否定するかは個々によるものだと思うのだが、少なくとも私はこの作品ははっきり「嫌いだ」と言おう。

 2作目であそこまで盛り上げ、主人公の熱い思いがヒロインを救った!と思わせておいて、ちゃぶ台をひっくり返す。一人の人間を救おうという思いで自分がやったことが、実は全てを滅ぼす結果となったという事を「どうだ!」と見せられた身として、気分がいいものじゃないし、折角肯定的に作りなおした物語を元の鬱展開に持っていくのかとうんざりした気分になったし、物語もとにかく薄い。30分で終わる物語を無理矢理3倍に希釈したようなかったるい展開にもうんざりである。演出だけは良いので、そこそこ観られるのが余計に滅入る。

 ただ、個人的な好き嫌いはともかくとして、この作品の位置づけというものを少し考えてみたい。

 まず第一に庵野は本当に後退したのか?あるいは10年前と全く変わらないのか?

 そう考えてみると、決してそうではなく、きちんと成長もしているのだろうと思える。その理由として、はっきりこの作品を「続く」としていること。本作単体では単なる鬱アニメだが、希望を最後にちゃんと残せるようになったという事だけでも評価したい。実際四作目を観ないことにははっきりしたことは言えないが、おそらくは次回作は胸の空くようなアクションの連続になって、大いに溜飲を下げられるようなものになってくれるだろう。それを感じさせてくれただけで良しとしたい。

 仮に全く庵野が成長してなかったのならば、これを「完結編」として全く悪びれずに「完」の文字を付けただろうから。それをせずに、ラストに次回予告をやってくれただけでも成長と言える。

 第二に、それでは何故本編で終了させなかったのか。この程度の物語であれば前半で終わらせ、後半に活劇を持ってきてすっきりと終わらせられたはず。それだったら前半の感触が悪くとも、後半で溜飲を下げさせて後味をいい具合に演出させることが出来たはず(もちろんこれは次回作がハッピーエンドに終わるという前提あってのことだが)。

 勝手に考えるに、それはカラーという製作会社を立ち上げた庵野秀明の企業人としての成長とも言える。元々「エヴァ」を作っていたガイナックスから離れた庵野はカラー(khala)という製作会社を立ち上げ、本シリーズを作り始めた訳だが、この会社を儲けさせようという思いがそこにはあったようでもある。

 前2作のディスクの売り上げはとても好調で、TVで放映すると視聴率もとれる事が分かっていたので、たとえば本作をどんなに無茶苦茶に作ったとしても客の入りは確保できる(事実2012年の邦画興行成績は本作がトップ取るのは確定的)。こんなドル箱作品を一本だけで終わらせてしまうのは勿体ない。どうせならもう一本!という色気を出してしまったように思える。

 これだけ鬱展開を続けておいて、次回作で再度ちゃぶ台返しをやってやれば、4作目の客入りは絶対確保できる。

 そもそも序破急で三作作るはずだったのを、もう一作作ることになったので、どうせなら一本は自分自身で好きなように作っておこう。どんなネガティブなものを作ったとしても客は入る。それでどんなに評判を落としたとしても、もう一本できっちり回収してやる。そんなような大人の事情が垣間見えたりもする。

 それで多分次の作品は庵野は後退し、鶴巻監督あたりに全てを任せてちゃんと最終回を作ってくれるんだろう。と言うか、そうでなかったら温厚な私でもいい加減怒るよ。

(評価:★2)

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