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[コメント] アメイジング・スパイダーマン(2012/米)

考えまいと思っても、やっぱりライミ版と較べてしまう。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作を劇場で観ている間、どれだけライミ版が面白かったか、頭の中で考えてる私がいた。

 …いや、それで本作が愚作という訳ではない。同じシーン一つ取っても、本作とライミ版では随分違いがあることを考えさせられただけだ。

 実際演出力で言うなら、CGのい使い方がこなれてる分ライミ版を越えてるし、爽快感に至っては屈指の演出レベル。CGをいかに使うかを熟知した演出家がどんどん増えているんだろう。

 そういう意味でかなり面白く仕上がっているが、今回のレビューは自分なりにライミ版の見直しもあって、二つの作品の対比を中心に考えていきたい。

 まず基本姿勢だが、スパイダーマンが他のヒーローと違っていて、映画にする売りは、主人公ピーターの若さがあるだろう。これといって個性の強くない平均的なロウワー階級の高校生が突然力を手に入れたとき、どんな反応をするか。それが第一の売りとなる。ライミ版も本作もその…では一致していて、恋愛模様を絡め、ヒーローであることの特殊性と、一般的高校生であることの普遍性の整合性を取ることに苦労する人物として描いていく。

 ただし、この二作の違いは恋愛要素に欠かせないヒロインとの関わりが随分異なる。  ライミ版のヒロインMJは、当時もかなりあしざまに言われていたが、自意識が高くて結構嫌みなキャラだった(決してそれで終わってないところがライミ版の良さでもあるが)が、一方の本作ヒロインのグウェンは自分のなすべき分限をしっかりと受け止めている理想的なヒロイン像。よってピーターの関わり方も随分異なる。

 平均以下の自分のことを決して振り向いてくれないMJに、執着心たっぷりにまとわりつくライミ版。お互いに存在を認めあい、きっちりと高校生らしいおつき合いが前提のウェブ版。これによってピーターの描かれ方も随分異なるようになった。

 方や恋愛がうまくいかず、いじいじするだけのライミ版パーカーと、実生活が充実しているから、他にしっかり目がいくウェブ版。これが根本的な姿勢の違いとなる。

 その点から見るならば、ライミ版の方が実は邪道な立場にあって、ウェブ版の方が本来の日ヒーローものに近い立場になるのだが、これはそもそも立脚点が違っていて、ライミ版の場合、このいじいじしたヒーローを描くことこそが目的だったのに対し、ウェブ版は違ったところを主題にしているから。

 二つ目として、ベンおじさんに対するピーターの関わりも随分違っている。どちらもピーターがスパイダーマンとして立つきっかけを作るキャラだが、ライミ版ではベンはピーターにとって一種のメンター(精神的指導者)である。「力を持つ者は責任も持つ」というベンの人生哲学はそのままスパイダーマンの行動に力を及ぼすこととなった。つまりライミ版はいじいじした性格の平均的高校生が、「ヒーローとして生きるとはどういう事か」ということを自らに問いかけていくことによる青年の成長物語として作られていたわけだ。だからベンの存在はシリーズ全体を通してピーターの中で生き続けており、一種の呪いのようにスパイダーマンの行動形式を彩っている。

 一方ウェブ版ではやはりベンは同じ事を語っているのだが、その言葉自体はそれほど重要視されていない。むしろベンという存在が生きていたということが話の中心となっていく。だからライミ版とは異なり、ピーターはベンを殺した犯人を見つけだして裁きを受けさせることを目的としている。ここにあるのは個人的な復讐劇となっていたわけだ。

 三つ目として、ピーターの父親の存在がある。これに関してはウェブ版が実に個性を見せてる。オープニング自体が謎の失踪を遂げて死んでしまうピーターの父の姿から始まり、ラストは「父の本当の死因は?」という謎めいたメッセージで閉じられている。これはライミ版には一切なかった描写である。明らかにこれは本作の特徴となる部分であろう。

 これらのことを総合して考えると、ライミ版のテーマとウェブ版のテーマの違いが浮かび上がってくる。

 それは結局ライミ版スパイダーマンは“自分探し”をテーマとしているのに対し、ウェブ版スパイダーマンは“父親探し”を主要テーマにしているという事。

 そう考えるといろいろ合点が行く。ピーターをリア充にする理由は、自分自身のことを考えるのではなく父のことを考えるための布石であり、ベンおじさんは精神的支柱ではなく、二人目の父として考えていたということだから。ベンを殺した犯人に復讐しようとしているのは、だから親を殺された子供の普通の感情として描かれているわけだ。これはグウェンの父親の話にもつながっていき、厳格で頑固な部分はあるが、家族を本当に大切にしている父を失わせることによってピーターとグウェンとをしっかり結びあわせる役割を担っている。

 そういうわけで後発であるウェブ版スパイダーマンはライミ版スパイダーマンとは違った形でちゃんとテーマ性を手にしているという事になる。

 ただし、それを踏まえた上で言わせてもらうなら、これは私のツボにはまったくはまらない。

 だからこそ観ている途中でも「ライミ版の方はこうしたのに」と思うことの方が多く、素直な意味でテーマを楽しむに至らなかった。

 あのラストもこの作品としては正しいのは分かっているものの、あそこでグウェンと仲良くなるのではなく、「あなたのせいでお父さんは死んだのよ」と責められ、それに対して何も言い返せない姿が観たかった気がしてならないんだよなあ。我ながらゆがんでることは承知だが。

 そんなことで本作の評価は中間点という事にさせていただこう。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)Orpheus ロープブレーク[*]

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