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[コメント] アウトレイジ(2010/日)

こりゃ、とびきりのファンタジーじゃないか。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 とりあえず本作の設定はかなり酷い…とは言い過ぎかもしれないけど、相当無茶苦茶。いくら”仁義なき”暴力団組織と言っても、簡単に人を殺しまくってるし、やってることも子供の喧嘩に近い。言うなれば「あいつは嫌いだから殺す」を繰り返した結果、ジェノサイドになってしまった。というもの。警察や大使館の描写もコメディレベル。

 でも、この作品の場合はそれが飲める。簡単な話で、これは極端を描いたファンタジーであり、暴力の連鎖の中にある人間を観る作品なのだから。極端なリアリティで話が出来ているならば、こんな短い時間でこれだけのものを描くことは出来ないし、ぎりぎりにある緊張感も“独特の世界観”と言う事が分かってしまえば問題なし。ある意味では本作はコメディとしてさえ観られる。脚本を書いている北野監督自身はそんな事百も承知だろう。ここで監督が描こうとしているのはリアルではなく、物語なのだから。

 そしてここで描こうとしている暴力は単にキャラクタが暴れ回ってる類のものではなく、特殊な倫理で成り立っている小さな社会の中で、為さねばならない暴力についてとことん描こうとしているようだ。

 普通の社会に生きていると、“為さねばならない暴力”なるものとは無縁でいられる。暴力は悪いものであり、為してはならないものとされる。しかし、この世界では暴力は義務として振るわねばならない。

 この前提にあってこの作品は成立する。いわばこの作品の舞台は一般人が見ることが出来ない社会の裏側そのものであり、ある意味において“日本にあって日本ではない場所”異界と言っても良い(化け物の出てこない魔界都市<新宿>と言った感じだろうか)。

 この世界にあって、強者は常に暴力を振るう側に立ち、震われた弱者はそれを甘んじて受ける以外の選択肢がない。仮に仕返しをしようものなら、倍の仕返しを覚悟しなければならない。民主主義やハンムラビ法典が入り込む余地がない世界なのだ。しかも強者の言葉は嘘ばかり。言葉を信じる人間は馬鹿を見るばかり。言葉や仁義といったものを全く信じず、人のためではなく自分のためだけに暴力を振るう人間だけが上に行ける。

 そんな中、たけし演じる大友はこの世界では珍しい誠実な人間だった。口は悪いが仁義は重んじる男であり、だからこそいつも貧乏くじをひかされる。劇中自嘲的に言っていた「貧乏くじ」は全部自分が招いたことだ。

 本作は馬鹿げた世界で馬鹿を信じる人間。そんな男の生き様を、ある意味で笑うための作品と言えるのだろう。信じてはいけない人間を信じ、信じてはいけない仁義を信じる。そんな男は滑稽であり、そしてもの悲しい。

 その意味で、本作は監督が追求し続けているコメディの一つの形としての位置づけが為されるべき作品と言えよう。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)ロープブレーク[*] 脚がグンバツの男 ナッシュ13[*] サイモン64[*] 浅草12階の幽霊 Myurakz[*]

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