コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] インビクタス 負けざる者たち(2009/米)

牢に繋がれて精神の自由というものを手に入れた人物もいるものだ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 極めてフォーマットに則った作品だ。と言うのが第一印象。

 スポーツ映画というのは、特にアメリカでは定期的に作られ、多くは物語が似通ったものとなる。良い例が『メジャーリーグ』で、これはスポーツ作品の良いところをうまくとらえてコメディタッチで作ったもの。フォーマットとしては、崖っぷちに追い込まれた弱小チームが、シーズンを通して奇跡の代逆転を行う。と言った感じで仕上げられる。実話を元にしたものも多々。特に本作の場合はプレイヤーだけでなく、それを見守る人物を中心にしているため、『コーチ・カーター』の作風にも似通ったものを感じられる。

 そう言う意味では素直に観て素直に楽しめる作品には違いない。ひねった作風の多いイーストウッドにしては珍しい王道作品とも言えるか。

 しかし、王道は王道なのだが、その辺はさすがのイーストウッドと言ったところで、細かいところが妙に凝っていて、細部に本作の楽しさは詰まっている。

 では本作の、他のスポーツ映画と異なるところはどこか。一つには前述したようにプレイヤーの外側の視点から描かれているという点だが、この作品の場合は、その「外側からの視点」が複数取られている。一つには言うまでもなくマンデラ大統領だが、もう一つ、マンデラを警護するシークレットサービスの側の視点もある。特にシークレットサービス側の視点は本作ではかなり大きなウェイトを占めていて、肌の色が違う混成チームが、最初反発しあい、それがマンデラの人となりに感化され、徐々にチームへ、そして同じラグビーチームを応援しているうちに本物の仲間へと変化していく課程が克明に描かれている。最初は車も別々。チームとしても肌の色で分けられていたのが、最後には同じ車に乗って歓声を上げていたりするところが細かいけど巧い作りになってる。

 そしてそのシークレットサービスチームはそのまま南アフリカの人々の縮図として描かれるようになり、ラグビーを元に、互いに認めあっていく構成を取る。だから本作はスポーツ映画を越え、国作りの物語にもなっている訳だ(ピナールの家族の描写もちらちら見せて、これが大多数の家庭の状況と言う含みも作られてる)。露骨な狙いかもしれないけど、その膨らみがあるからこそ、本作は面白くなる。

 そしてマンデラの前半生についてもかなり巧く構成されている。本作は基本的に過去の描写はせず、マンデラが大統領になった直後から一方向に時間は流れているのだが、事ある毎に過去の話をマンデラ本人にさせることによって、その前半生をしっかり描き込んでいる。一本の映画の構成としては誠に巧みだ。ここでの面白さは、マンデラという人物が牢獄に繋がれた時、全てを許すことによって本物の精神の自由を手に入れたと言う部分だろう。だからこそ、大統領職という、最も不自由な状態で、「自由」を国民に与え続けようとしたという部分だろうか。理想的に描かれすぎの部分があるが、だからこそ、監督はこれを作りたかったのだろう。

 キャラも適材適所と言った感じ。イーストウッドと組んで長いフリーマンの貫禄の演技は言わずもがなだが、デイモンがすっかりヴェテランの貫禄をまとわせている。『戦火の勇気』の時の激やせ&ナイーブさはもはや全く過去のもの。すっかり貫禄が付き、それでも繊細な演技をこなすあたり、この人はまだまだ延びる役者だよ。実際同じようなフットボール選手を描いた「リプレイスメント」では、どうしてもリーヴスの痩せ方が気になって仕方なかったものだが、ここでのデイモンの大幅増量は、しっかりラグビープレイヤーしていて、演技に対する姿勢の真面目さも見えてくる。

 「老いてますます盛ん」とはよく言うが、決してチャレンジャー精神を失わないイーストウッドには改めて敬意を表そう。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。