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[コメント] 重力ピエロ(2009/日)

演出はとても質が高いところを目指していたようだが、あと一歩。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 2000年代になってから、世間の標準からはちょっとだけずれた、それでも表向き普通に暮らしている等身大の青年を中心に、その内面を描こうとする作品が増えてきた。本作もそのフォーマットに則って作られた作品で、「本当の家族とは何か?」と言うことを問いかけようとしているような、そんな印象はある。

 「血は水よりも濃い」という言葉があるが、血縁による呪われた血を恨むよりも、これまで自分を立派に育ててくれた家族の方がよっぽど大切。そんなところが着地点となるだろう。

 そんな道徳的なものをベースに、雰囲気もほんわかと、しかし内容が過激に。こういう風に書いてみると、本作はかなり矛盾点が多い。その矛盾点を映像化するのは難しそうだ。この作品を時間軸で分析すると、兄弟愛→謎解き→サスペンス→サイコキラー→親子愛へと移行していくのだが、このタイプは場面の切り換えによって演出を変えるのが普通だろう。しかし本作の場合、その雰囲気を一貫させようとしたところにある。

 結局、その矛盾点をちゃんと映像化出来るかどうかと言うところに本作の見所があったはず。それが出来たか?と言うと結構難しかったかなあ?

 雰囲気は結構良いのだ。オープニングの「春が二階から落ちてきた」というモノローグから始まり、妙に仲の良い兄弟と父親の関係。何を考えているのか、今ひとつ捉えにくい弟の春を、それでもちゃんと認めている人間関係を作り上げつつ、徐々にそのほんわかした雰囲気が壊れていく過程も良い感じなのだが、肝心なところで前半のほんわかした雰囲気を引きずってしまって、後半のシリアルキラー的な展開に衝撃度が足りない。どことなく冒頭部分のほんわかした描写を殺人の所まで持ってきてしまっている。  これを本当に高水準にまとめることが出来たら、相当に凄い技量と言えるのだが、ちょっとまとめきれなかったな?良いところまでいってたんだけど。

 本作で特筆すべきは小日向文世の演技だったかな?まるで『ミツバチのささやき』ばりに何もしてないような、単に趣味人のような描写をしておいて、実は自分の全ての責任を受け入れているという、かなり凄い人物に仕上げられ、それを飄々と演じている技量に感心出来た。

(評価:★3)

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