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[コメント] 波止場(1954/米)

劇中のブランドの成長過程は、まるで坂本龍馬の故事を見てるようだ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
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 多くの社会派映画を手がけたカザン監督入念の一本。1948年のニューヨークの港湾労働者使役業のボスが殺された事件を元とし(新聞記者のマルコム=ジョンソン記者がこの事件を掘り下げ、その実態をスクープに収め、ピューリッツァ賞を受賞している)、アカデミーでも1950年代のアメリカで最も力強い作品と評され、当時最多の8部門の受賞という快挙を成し遂げた作品。

 カザン監督作品はあの説教臭さが嫌いであまり相性が良くないが、本作は好きな作品。ストーリーもちゃんとひねりが利いてるし、決して単純なヒーローではないテリーをブランドが好演している(最初は出演を躊躇していて、主演をシナトラにするという話もあったらしい)。ブランドにとっても本作こそが代表作と言ってしまえる。

 本作で面白いのはやはり主人公のテリーの位置づけだろう。彼はボクサー崩れのタフ・ガイなのだが、意外に繊細なところがあって傷つきやすい。それに話が進むに連れ、成長していっているのが分かる。最初はやや内向的な、腕っ節だけが強い男だったのが、様々な人間関係や挫折を経、暴力では何にもならないことを知っていくことになる。

 成長に従ってその事を知知ってき、波止場の経済を握っているジョニーに対抗するのは…という具合に持っていく…まあ、最終的に出した結論が“正義”と“労働者の団結”となる辺りがカザン作品らしいかな?

 その過程が丁寧に描けていたし、それに耐えるだけのキャラクターをブランドが持っていた。勿論脇を固めるキャラクター達も充分にキャラが立ってた(なんだかあの神父は監督本人とダブる)。ボクサー崩れと言うことで、強いのか?と思わせておいて、実は腕力が勝負じゃないところが良い演出だ。

 それでもラストシーン、なんだ、やっぱり腕力で終わらせるのか?と思ったら意外な終わり方をしたのでちょっと驚いた。そうなんだよな。あそこでボスをぶちのめして終わるようでは、ここまでのストーリー展開が意味を無くすものな。どんなことでも一人では戦えない。消極的なものであれ、正しさを求める心を動かすことが重要なんだな。新鮮な驚きを与えてくれたので、やや説教臭かったけど、良しとしよう。

 カザン監督はかつて共産党に属していて、その点を非米活動委員会につつかれ、仲間の名前を証言した経歴を持っている。そんな彼がこんな作品を撮ったと言うことで、相当騒がれたらしい。内容も労働組合の暗部を描いているわけだから、当時のハリウッドでは相当の勇気が必要だったはず。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)寒山拾得[*]

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