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[コメント] 七人の侍(1954/日)

もう、これは何と言って良いやら…
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 感動を通り越して感激までしてしまう。

 長い作品なので、観る時は気合いが必要だと思い、かなりタイミングを計って観た作品なのだが、よくぞ映画というものが分かってきた時にこの作品と出会えたものだ。本当に素直にそう思えた。微妙な一時期にこれを観たのは本当に幸せだった。(無念はこの少し前にテレビで『荒野の七人』を観てしまったこと。それと、映画で放映した時に見損ねてビデオにしてしまったこと。無理してもこれは劇場で観るべき作品だったよ。これは今でも悔やまれる)

 観て随分経ったが、未だにちゃんと場面場面が頭に浮かぶ。前半部分、勘兵衛の元に集ってくる侍達同士の緊迫したシーン、緊張と弛緩の連続。しかも太刀さばきのタイミングの良さ。惚れ惚れする。私なりにはここで菊千代(三船敏郎)の演技はエキセントリックすぎるか?と思っていたが、志村喬の巧さか、上手くそれを包み込んでいた。

 そして中盤の侍達が農民の生活に入り込むシーンなのだが、実はこれが一番の主題であり、そしてここを無視すると映画そのものの意味がなくなる。当時身分制が確立しつつあった農民と武士というこの二つが決して交わる存在でないことをはっきりとここで印象づける訳だ。彼らは村の救世主であるにも拘わらず、あくまでアウトサイダーとしてしか存在できず、そして強すぎる力はむしろそれを味方に付けた農民達を圧迫し続ける。殆ど冷戦下の世界情勢。いやはや上手い上手い。

 そして最後のクライマックスになる訳だが、ここで本当に菊千代の存在感が活きてくる。今まで単なるムードメーカーでしかなかった彼がいかに侍らしくあろうと振る舞っていたかが分かり、そして自分は侍と信じて逝く。彼を見守る他の侍達の目の優しさにここで気付く。勿論乱戦のシーンも素晴らしく、泥まみれになりながらも(更に“黒い”雨に打たれながらも)奮戦する彼らの格好良さ。更に最後に自分たちより農民達の力の方を信じ、村に野武士を誘い入れる勘兵衛の作戦。ここも重要。この戦いにおいて、この時だけは武士と農民は完全に一体となる。戦いの充実さに加え、その辺の細かい配慮も忘れてない。

 そしてラストの勘兵衛の優しい眼差し。一瞬の輝きのごとく一体化した農民と武士達は、再び自分の道に分かれていく。それを十分承知し、「勝ったのは百姓だ。我々ではない」と感慨深げに言い切る。農民の強さというのは、日常にこそある事を彼ははっきり示している。

 細かく語るのは避けるが、勿論カメラアングルについても素晴らしい。唯一の不満は音声が殆ど聞き取れない事だが、これは黒澤映画の特色みたいなものか。

 世界の黒澤。彼は邦画を芸術の高みに引き上げ、そして映画を誇るべきものとした。一方、彼の偉大さは邦画そのものを制約してしまい、本当に今でもそこから脱却できていないのが邦画でもある。功罪入り交じってはいるが、この作品には素直に拍手を送ろう。

(評価:★5)

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