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[コメント] 隠し剣 鬼の爪(2004/日)

これをしみじみ良いと思えるのはやっぱり私も日本人だなと思います。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 そんなに読んでる訳じゃないけど藤沢周平の歴史小説は暖かみがあってとても好き。特に不器用にしか生きられない男とか、一途ながらそれを言えない姿勢の女性の姿とか、見事にツボにはまる。

 それで本作は本当に私が観たいと思った、そのものの姿がそこにあり、なんか凄くほっとした。流石山田洋次監督。藤沢世界を本当に素直に映像化してくれてる。

 そう言えば時代劇を劇場で観るのは一年ぶり。しかもその一年前って『ラストサムライ』(2003)で、細かい設定の矛盾がどうにも鼻についたものだが、こちらは設定で言えば申し分なし。冬から春。秋から冬へと移り変わる東北の情景が大変心地よい。しかも小さな家の部屋の調度に至るまで、よく練り込まれている。刀の描写だって手を抜いてない。片桐が兄弟弟子の狭間を斬らねばならなくなった時、砂に一太刀、一太刀突き刺して切れ味を増していたり、刀の柄にギリギリと紐を締め直すなんて、そこまで描くとは凄いもんだ。更にその敵となる狭間も錆び付いた刀を突き出し、「錆びちゃいるが切れ味はなかなか」と言う時の凄味もある。火縄銃から新式銃へと移行しているのも、弾ごめのシーンでしっかり演出。細かいところに配慮が行き届いてる。

 人物描写も、設定や描写については申し分ない。冒頭の3年前で青々としていた片桐の月代には無精髪(?)があって、そこを世話してくれる人がおらず、生活が落ち込んでいるのが分かったりするのがなかなか(目立つんだよね)。

 ただ、人物そのものの描写はどうかな?と言うところ。はまってない訳ではないけれど、もっとふさわしい人もいたんじゃないか?なんてのも思わされる。永瀬正敏よりもはまった人間はいそうだし、友人の吉岡秀隆だって、もう一つ言うなら、初の悪役という緒方拳も、もうちょっと…悪くはなかったけど、もっとふさわしい人がいたんじゃないかな?それを感じてしまったよ。カメオで倍賞千恵子とか光本幸子とかがちらっと登場してるのが、なんだかとても嬉しいものがあったけどね。

 物語については緩急が上手くついていて、コミカルな部分あり、もどかしいほどの恋物語あり、息詰まる殺陣あり、最後に明らかになる“隠し剣鬼の爪”の本当の役割とかがあって割と長いながら全然飽きさせないし、何より美しい描写と相まって、しみじみ良い作品だと思う。

(評価:★4)

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