コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] マイ・ボディガード(2004/米=メキシコ)

三者三様の超絶の演技を観るための作品だと割り切る必要はありますが、それに徹すれば本当にガツン!と来る作品です。今はほんとに凄いもん観っちまった。と言う思いでいっぱいです。(以下長文です)
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 この作品で凄いのは何と言ってもキャラ。このキャラクターの描写はどうだ。

 主人公のクリーシーはこれまで対テロ部隊に属してきたため、文字通り地獄を見てきた。それは決して画面で描かれることはないが、言葉の端々にその苦渋がしみ出ている。かつての同僚レイバーンに対して「神は俺たちを赦してくれるだろうか?」とぽつんと喋り、それに対しレイバーンは背を向けたまま「それはない」と断言する。クリーシーはその答えを分かっていたし、それを求めてもいたのだろう。その答えしかないことを。しかし分かっているからこそ、良心は浸食され、酒びたりとなっていった。しかし、同時に彼は聖書を精読し、ほんの僅かでも救いを求めるような人間だった。手に受けた傷についても、決して喋らない。昔の映像を全く出さないことで、どれだけ心の傷が深いかを演出しようとしていたはず(物語途中からの拷問シーンで彼が過去何をしてきたか分かるというもの)。そんな彼が彼の心に無邪気に押し入ってこようとしたピタと触れ合う。当然最初は彼女を拒否しようとするが、やがてそんな彼女によって癒されていく。レイバーンが言うように、「もう一度生まれ」ることが出来たのだ。しかし、そのピタを永遠に失ったと知った時、彼は再び虚無の中に落とされてしまう。そこからの復讐劇の凄まじいこと。クリーシーは決して激しない。これまで自分が行ってきたプロの技を淡々とこなしていく。しかもそれだけじゃない。明らかに無意味な行為を行うのは、ピタを守りきることが出来なかった自らを罰するためであり、更に言うなら、世の中全てに絶望したが故の行為だった。そのため復讐劇を本当に淡々と行ってるし、それがとても哀しそうに見えてしまう。あれだけの事をしていながら、残酷さや高揚感より、全く逆にいたたまれないような気分にさせてくれる。

 ここまでの演出が出来るとは。正直スコット監督を見直したよ。

 それでそれを受け止めるキャラが素晴らしい。ワシントンは『トレーニング デイ』(2001)(この作品も最高評価)以来の汚れ役だったが、繊細な心の動きを見事に演じきっていた。最初の気怠さと、自分はどんどん壊れていく事に対する恐怖心。壊れていくのが分かりながら酒瓶に手を伸ばす行為。そして全くの無表情に復讐を遂行しながら、一人になった時に見せる哀しげな顔。更にその間に見せた笑みがあるからこそ、その二つの顔が本当に引き立っている。又、そのプロの演技に真っ向からぶつかっていったファニングも凄い。確かに『I am Sam アイ・アム・サム』(2001)の時も上手いとは思ったけど、よもやここまで凄まじい女優になっていたとは驚くばかりだ。実際、これはキッドナッピングの物語なので、この役は少年でも構わなかったはず。だが、彼女の存在感あってこその本作だ。正直あの一連の演技はぞくっとするほどだった。子役としては『ポネット』(1996)や『ショコラ』(2001)の少女役ヴィクトワール=ティヴィソル以来の本気で惚れ込みそうな子役となった。そして脇を固めたウォーケンも忘れちゃならない。最近は悪役ばっかだけど、これで新境地を拓いたんじゃないか?一見ふてぶてしい性格してるように見えながら、昔の、まるで今にも死んでしまいそうな繊細さが同時にしっかり現れていた。この三人の演技は、実は既にとんでもない領域に入ってるんじゃないか?

 ただ一方、この作品に最高評価を与えられないのは、ストーリーの弱さ。原作は私は知らないのだが、これってそのまんま『必殺』シリーズなんだよな。強いて言えば、テレビ版の最終回っぽい。実際引いて考えてみると、クリーシーがやった事って、実はとんでもない勘違いだったりする。だってピタは死んでなかったのだから、あのまま放っておけば、再び誘拐犯との交渉が始まっただろうし、親父も自殺せずに、会社も持ち直す。多少不快感は残るだろうけど、表面的には「めでたしめでたし」で終わった可能性もあったわけだ。結果的に余計な犠牲者を増やしただけと言うのが何とも…余韻が無茶苦茶悪い(それが狙いなのかも知れないけど、あそこで救いを演出したのは私的には大失敗)。それにピタとの交流も、一旦笑みを見せた後は、次の瞬間に大の仲良しになってるのもちょっと。もうちょっと課程を丹念に描いて欲しかった。

 更に一つ演出上の難点を。「あと五秒でお前も終わりだ」と言って爆発させるシーンがあるんだけど、あんな巨大な爆発起こすような爆薬なんだから、五秒だったら絶対クリーシー本人も爆発に巻き込まれてなきゃおかしいだろ?それにあれってどうしても『マッド・マックス』(1979)のパクリにしか見えなかったし。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)赤い戦車[*] Orpheus セント[*] Keita[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。