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[コメント] 暴力の街(1950/日)

映画が社会に対して責任感を持っている。と自負が強かった頃の作品。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作は実話を元にしているのみならず、事件が起こってほんの数年後、しかも完全決着がついていない事件を題材に使っているだけに、その緊張感が画面を通して伝わってくるような生々しさを感じさせてくれる。本当に社会派作品というのは、このような作品を言うのだろう。下手に物語を脚色せず、実際にあった事件をそのままぶつけたといった感じ。それが生々しさになっている。

 ただ一方、社会派作品の弱点も見事に出た作品でもあり。映画として考えるならば、物語として盛り上がりの場所が分かりづらいのだ。後の山本監督はその辺のバランスを上手く作るようになったものだが、まだこのあたりでは、話がだらだらと続くだけの話になってしまい、一方的な新聞社の正義感ぶりが続くだけ。更に新聞社全体が主人公のため、主人公を特定しにくく、中心点がよく分からないという弱点もあり。

 リアルタイムでこれを観てる人は、新聞記事などで事件のことがある程度分かっているからこそ、本作の意味合いが分かってくるのだろうが、時を経て本作を観ると、それだけではよく分からない。実際調べてみて「あー、こんな事件があったんだな」と分かってようやく意味合いが分かる。

 映画にとっても民主化という題材はとても重要なもので、それを周知させる役割を自認して作られたのだろうが、今の目で観ると、意気の高さがやや空回りした印象も受ける作品。端的に言えばバランスが悪い。社会派監督山本薩夫の習作と言ったところだろうか?

 ちなみに本作は、日本映画演劇労働組合が総力を結集。本作のために特別に製作委員会を立ち上げて東宝、松竹、大映等各撮影所のメンバーをはじめ劇団関係の俳優まで呼び集めて作られたという迫力の作品でもある。

(評価:★3)

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