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[コメント] ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(2004/米)

賛否両論はあろうと思うが、前2作と作り方を変えたのは正解と思います。ただ、その分不親切な所もいくつか…(後、字幕なんとかしてくれ)
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 2001年には2本の童話ベストセラーの映画化作品が作られた。どちらも最初からシリーズを前提とした作品で、絶対に売れるだけに、慎重に慎重を重ねて作られた作品だった。言うまでもないが、一本目が本シリーズの一本目である『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001)で、もう一本がトールキン原作の『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)だった。どちらも原作は膨大な情報量を持っていたが、この2本の作り方は大きく違っている。前者が原作のほとんど全てのエピソードを入れたのに対し、後者は話自体を多少端折っても監督の思い入れのある部分を徹底的に強調したものとなっていた。そのどちらもかなりのヒットを飛ばしたが、賞の多寡を見ると、映画人に受け入れられたのはむしろ後者の方だったのが分かる。

 なんでこんな話をしたかというと、これまでのシリーズ2作と較べると、本作の作り方は随分異なっていたと言うこと。これは勿論前2作のコロンバス監督からキュアロン監督へとバトン・タッチしたと言うこともあるが、本作の作りはむしろ『ロード・オブ・ザ・リング』の作り方に似ている感じがするから。

 前2作がかなり忠実に物語中の出来事をなぞっていたのに対し、今回はかなり大胆に原作をいじっているのが特徴で、それが良い部分と悪い部分の両方を出していた。何でも見せようと詰め込んだのではなく、きっちり盛り上がりを最初から顧慮して物語を構成しているため、物語自体に緩急がしっかり付けられ、最後の盛り上がりに充分時間を用いることが出来たのは正解。原作全部を映像にすることが出来ないのだから、当然無駄な物語はばっさり切った方が良い。それに今回はホグワーツの謎ではなく、純粋なミステリーに近いので、冗長は避けねばならなかったし。その点に関しては褒めるべき部分といえよう。

 だが、一方切り方が大胆すぎたため、肝心な部分まで切れてしまっていたのもあったりする。切り方というのは人それぞれで、どれを重要に思うかはそれこそ原作を読んでる人それぞれが違ってくるとは思うのだが、私はこの物語の主題はブラックとハリーの父親との関係にあると思ってるので、その部分の説明が見事に切られていたのには随分疑問。  ルーピンが狼男だというのはこの作品でも重要な要素として語られているのだが、それでは何故ブラックは犬に変わることが出来るのか、そして何故ハリーの父親の幻想が鹿の格好をしていたのか。これは最後にルーピンの口から語らせねばならなかった事だ。それにスネイプが命の恩人の息子であるハリーにこれだけ辛く当たるのか。それにあのいたずら地図はルーピンとハリーの父親が作ったんだよ。と言う、その辺の説明が全くないのは問題じゃなかろうか?喋らせるだけなら3分もあれば出来ただろうに。

 クィディチシーンは前2作で散々やられているのでカットしたのは良かったけど、ここで父親の幻想が垣間見えるシーンも重要だったはず(ここで一瞬牡鹿の姿を見せていれば、最後のシーンも随分分かりやすくなったと思う)。それと最後に最速の魔法のほうきファイアボルトが登場するが、最初にこれは売られているのをほんのちょっとで良いから見せておくべきだったんじゃないか?後、スピードを重視したため、ディメンダーの恐ろしさが今ひとつ伝わってこなかったのも、残念なところ。

 キャラクターについてはかなり面白くなってる。ハリー、ハーマイオニー、ロンの3人を3作共通としたお陰で、1作目からの変化が感じ取れるところが良い。世界で最も金持ちのティーンエイジャーとされるラドクリフも少年の容貌が消え、反抗期まっただ中と言った風情だし、自分で何でも出来るというふてぶてしさと父親を思う繊細さが同時に良く出ていた。ハリーと言うより、ラドクリフ自身の魅力を巧く引き出した結果だ。この3人の中でも一番はハーマイオニー役のワトソンだろう。1作目の時とはまるで質が違ってる。本当に女になったと言った感じがするが、何より演技の幅が非常に広くなった。3人が危機にあった時、咄嗟にハリーではなくロンの方をかばう仕草なんか、巧いもんだ。物語中一言もそんなことは言わず、しかもハリーと一緒にいる時の方が多い位なのに、明らかにロンの方に惹かれている事をよく示していたよ。後、オールドマンは相変わらずだな。この人は狂気を中に秘めた役が何と言ってもよく似合う人物。はまり役だったかも。

 結果として、良いところもあり、悪いところもあり。でも観てる間はストレスなしに通して観られるし(今回初めて時計を観た時は既に1時間半を過ぎていた)、余韻も悪くない。好作と言っても良いだろう。設定で不満感じたなら、原作を読んでみることをお薦めする。

 後、余計なことだが、このシリーズの字幕は相変わらずもの凄く、あきれかえるほど。冒頭に出てきたバスの車掌が「あのしと」と言ってるのを聞いて頭抱えた(いくら自分が訳したとは言え、他の映画から台詞勝手に引用するか?)。劇中の台詞の超訳も凄い。かなりむかっ腹が立ったぞ。むしろ本作は吹き替えで見る方をお薦めしたい(精神衛生のためにも)。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (9 人)JKF[*] Shrewd Fellow[*] ぱーこ[*] まりな[*] ぴよっちょ 4分33秒[*] アルシュ[*] ホッチkiss[*] 茅ヶ崎まゆ子[*]

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