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[コメント] その男、凶暴につき(1989/日)

他の誰にも出来なかった“リアルな強さ”が北野監督作品にはあります。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 本作は何本か監督作品を観た後で出会ったのだが、そう言う意味では幸福な出会い方だっただろう。80年代の邦画嫌いビートたけし嫌いの私だったから、多分本作の公開時点で観ていたら、本作の良さは全然分からなかっただろうから。

 それで何本か監督作品を観た後で本作を観ると、以降の作品に通じる手法やテーマなどがしっかり盛り込まれていることが分かる。いや、むしろ原点を観ることによってかえって驚かされることも多かった。

 一つには、主人公は決して超人ではない。ただ彼はリアルな意味で強い。ということ。それは彼が今の一瞬以外を考えてないから。暴力を振るったら後で始末書を書かねばならないとか、殴る相手の人生のことなんかを考えたら普通拳は鈍る。だけど、その瞬間しか考えず、後は何とかなる。としか考えてないとすれば…マジで狂ってるから強いのだ。ここでの諒介の行動は無茶苦茶で一貫性がない。それは彼がただ「今」しか観てなくて、後は何とかなる。という割り切りで出来ているからだろう。そんな生き方を描いた作品ってこれまで無かった。

 改めて思うが、この間の取り方は他の監督には真似出来ない。緊張感を持たせて相手に近づき、相手の反応を全く待つことなく、いきなりの一方的なバイオレンスシーンが展開。普通この手の間の取り方は緊張感を持続させておいて、頃合いを見てアクションシーンにはいるのだが、その間を全く無視してしまい、観てる側は呆気にとられている間に事が終わってしまう。ライブ感覚を大切にする芸人だからこそ得た独特の間の取り方なんだろうけど、これは誰にも真似出来ない。北野監督作品は暴力シーンがきつすぎるという評も聞くが、暴力シーンそのものが残酷とかではない。暴力が一方的で相手を完膚無きまでに叩き伏せてしまうから、それが観ていてきついのだろうと思える。

 それといわゆるセックス描写もその感覚に則って行われるのも特徴か。あくまで一方的に責めるシーンが多く、お色気と言うよりもこれまた暴力シーンにしか見えなかったり。  いずれにせよ、既存の確立された演出を否定し、誰にも真似の出来ない独特の間の取り方がデビュー作から既に確立してたというだけでも本作の凄みを観ることが出来る。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)週一本 おーい粗茶[*] 林田乃丞[*] Myurakz[*] けにろん[*] sawa:38[*]

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