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[コメント] 下町の太陽(1963/日)

山田監督が倍賞千恵子に求めたものとは?
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 倍賞千恵子が歌手としてデビューして大ヒットソング「下町の太陽」を歌っており、その歌詞を元に、彼女自身を主役として製作。これによって女優としてもしっかりした演技が出来ることを証明したこととなったが、何よりこれより長く山田洋次監督とのつきあいが始まったことになる、一種の記念的作品。

 内容的には、丁度高度成長期と言うこともあり、日本は最も活気づいていた時代であり、一方ではそのひずみが様々なところに出始めていた時代。何より貧富の拡大と、労働者の待遇改善が叫ばれていた時代であり、本作も単なる恋愛物語と言うよりは、そう言った時代背景を元にした社会的な意味合いが強いものに仕上がっている。恋愛よりも仲間や家族、何より“此処にいること”を大切にする姿勢は後の山田監督作品に共通するものであり、それが“車さくら”倍賞千恵子の役割であり、既にコンビを組んで第一作で役割が確立しているのが面白いところ。ただ、全てが類型という訳ではない。彼女の存在感は「いつでもそこにいてくれること」にある。帰るべき場所にいてくれる安心感と言うべきだろうか。それがあるからこそ、これから長くつきあっていったのだろうね。

 本作は社会派的作品と見なす事も出来るだろう。そうすると、彼女は人を蹴落として自分が偉くなろうとする出世街道よりも、ここに残ってみんなのために戦うことを選んだ、自由の闘士と見なすことも出来る。本作を観て、最初の内は私もそんな風に思っていたが、今は少々変わっている。むしろ戦うことよりも、今ここにいて、周りの人を幸せにしたいと願うことが彼女の選んだ道なんじゃないかと思うし、その姿勢が山田監督の原点じゃないかと思う。

 こう書いていて思ったが、山田監督が倍賞千恵子に望んでいたものは、どれほど歳が若くても、「お母さん」だったんじゃないかな?山田監督作品はそれが一貫していて、だからこそ倍賞千恵子が必要だったんじゃないかと思えます。

(評価:★3)

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