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[コメント] 突然炎のごとく(1962/仏)

本作の完成度は監督の思いと女優の才能が見事に噛み合ったお陰でしょう。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 トリュフォーの監督第三作だが、この人の作品はここに至るまで全く違った手法で作られているのが面白い。『大人は判ってくれない』(1959)では少年の目を通したシニカルな世界が。二作目の『ピアニストを撃て』(1960)では、全く異なったコミカルな逃走劇が。そして第三作の本作では三角関係に揺れる男女の生活が。全く異なる手法を用い、しかもそれぞれにトリュフォーらしさというのが出ているので、興味深い。本作は、これまでの二作とは異なり、観念的な物事よりも演技者に対する愛情に溢れた作りとなっているのが最大の特徴といえる。

 本作を作り上げたのは、ジャンヌ=モローと監督が出会ったのが最大の原因だろう。モローはぱっと見、そんなに花がある女優じゃなかったのだが、そのバローの中にトリュフォーは自由さを見いだしたのかもしれない。だからここでバローが演じた女性はトリュフォーにとっては理想の女性像そのものだったといえるし、それを受けたバローも自由闊達に、性格のややきつめの女性を活き活きと演じることが出来た。こういう作品も確かに存在するのだな。結局本作は、ジャンヌ=モローという女優のために作られ、ヴェルナーもセールも彼女を引き立たせるための存在だった。

 先に「観念的ではない」と私は書いたが、正確には、本作も結構観念的な部分があるのだ。それらは全てバロー演じるカトリーヌの言行の中に表されている。小悪魔的で男を手玉に取るかのような姿であれ、何か変なことを言って男を困らせてみたり、かと思うと、男に頼り切ってみたり…女性のあらゆる部分がバローの中にはあるし、なぞめいた言葉もよく使う。ここが本作がトリュフォーの手によるものとよく分かる部分だ。  この手の恋愛ものはさほど好きとは言えない私だが、本作のテンポの良さと、どんな状態になってもどこかに笑いを入れようという心意気は充分に受け取ることが出来た…と言うか、トリュフォー監督の素晴らしさを改めて感じさせてくれた。

 それに、この時代のハリウッドでは到底出来ない素材を、フランスなら出来た。と言うことをもよく示している。開放的なフランス映画だからこそ、トリュフォーはストレートに自分の思いをぶつけることが出来たのだろうし、バローも活き活きと演じることが出来たのだ。時代性をよく表した傑作だ。

(評価:★4)

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