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[コメント] 東京物語(1953/日)

心が洗われるとか、癒されるとかそういう映画じゃない。これは”東京残酷物語”だ。
アルシュ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「父母が新幹線のぞみ号でやって来た」じゃあ、映画にならない。蒸気機関車の時代だからこそ、結末を知らなくても、しょっぱなから涙が滲んでくる。

今の平均寿命(男性78才、女性85才)での感覚だとピンとこないが、気持ちを昭和30年頃にタイムスリップさせて鑑賞してみた。昭和30年前後だと平均寿命は男性63.5才、女性68才位である。

広島県の尾道から東京に上京した父母の平山周吉と、とみの夫婦は70才と67才という設定。現代では新幹線で約4時間も、この時代では長旅は18時間以上かかっている。もう、これだけで涙が滲んでくる。

とすれば、今生の別れになるかも知れない父母の上京になる。幸一と杉村春子演ずる志げの夫婦は、忙しさにかまけて体よく熱海温泉に送り出す。父母が一番望むのは温泉旅行でもなく、何よりも肉親と共に一緒に居るだけでいいはずだ。

母の危篤に際し、事務的に喪服までも事前に用意する志げ。母の死を現実にして泣き崩れるが、夫婦共々そそくさと帰るのは残された父へのいたわりが感じられない。連れ合いを亡くして悲しくなるのは、臨終の時ではなく、葬儀も終わり肉親が一人去り二人去り自分だけになった時だと叔父が言っていたのを思い出す。そして本作の笠智衆演ずる周吉もついには一人きりになる。本作の笠智衆は妙にセリフの棒読み感があるけれど、それでも号泣してしまった。

今の世の中、ますます希薄になる家族関係だけれど、この登場人物を反面教師に誰もが自分の肉親を大切に出来る様になる。混沌とした世の中で、安易な殺人から国家間の戦争まで人間の業は深い。そんな中で最後に信じられるのは「家族愛」のはずだ。時代を問わず、そして万国共通のテーマだけに、世界で堂々の5位に評価されているのは、そう言った面からだろう。

(評価:★5)

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