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[コメント] 真夜中のピアニスト(2005/仏)

わらの犬』の逆バージョン?
TOMIMORI

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







父親を殺したロシア人にとどめを刺さないのは、己の凶暴性に勝利したことを意味しており、 ピアニストとしては敗者ではあったが、自分を制御することに関しては勝者であった。 この映画は数学の世界に引き篭っていた男が己の暴力性に目覚める『わらの犬』の逆バージョンといえるかもしれない。

ラストシーンでピアノを弾いている女性を見る彼の手が自然と動くのは、まだピアニストへの未練が残っているようにも思えるし、 殺人の一歩手前で踏みとどまらせるきっかけを与えてくれたピアノに感謝しているようにもとれて味わい深い。

ちなみにピアノ教師はなんで中国人やねんと思う人もいるかもしれないが、 実際に今のピアノ界はアジア人の台頭が著しく、アジア系のピアニスト抜きでは語れないほどであり、もはやピアノは西洋の楽器ではない。 そんな現実も盛り込んだのはポイント高い。

蛇足として主人公のピアノの弾き方について触れると、 主人公はホロヴィッツに憧れているという設定だが、弾き方はおよそ似ても似つかない。 ホロヴィッツは背をピシっとした姿勢をほとんど崩さない弾き方で有名だが、彼は(さすがに猫背ではないが)グールドみたいに体を揺らす弾き方なのだ。 体を揺らして弾くピアニストは実際にも多いから一概にグールドと決めつけることはできないが、 彼が部屋で自分の演奏をマニアックな機器で録音してチェックしている姿を見るとグールドを連想せずにいられないし、 ヴィルトーゾ型のコンサートピアニストとして高名なホロヴィッツと、コンサート活動を否定して録音や執筆活動に集中したグールドを この主人公に重ねて描くことは、彼の私生活の二面性(昼は暴力家、夜は芸術家)を語るうえでは欠かせない要素だと思うのだが、こじつけにも程があるかな。

(評価:★4)

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