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[コメント] アップルシード アルファ(2014/日=米)

進化するために捨て去るということ
Orpheus

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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アップルシード』映画シリーズが進化するためには、絶対に乗り越えねばならない大きな課題があった。美麗なCGを稚拙な演技・演出の3Dライブアニメが台無しにしてしまっていたのだ。今回の3作目は、シリーズ10年の制作経験でこなれてきたのか、それとも監督の前作『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』に引き続き外国人モーションアクターの演技が良かったせいかは分からないが、シリーズの前2作よりもはるかに自然なものになっていた。特に人物のアップがようやく鑑賞に耐えるレベルになってきたのが何よりも嬉しい(もっとも、虹彩スキャンのシーンは旧作に戻ったかのような出来だった。演出でもっと改善できたと思う)。また、一般ウケを狙って失敗した旧作(PRADAとのタイアップで女性客を呼びこもうとした)と違って、ゲーム畑からギリシャ神話をモティーフとしたGod Of Warの脚本家を起用したり、'80年代の影響を受けている「ヤスタカ」サウンドを取り入れるなど、自らの立脚点を正しく認識した上でターゲットを絞り込んで作られた《潔さ》が本作には感じられる。

そして今回評価すべき点はやはり、キャラクターの3DCGを従来のセルアニメ調からフォトリアリスティックなものにダイナミックに変えたことだろう。そもそも本シリーズは日本よりも北米マーケットの方で人気があり、シロマサワールドのSFガジェットやキャラクターのプロフェッショナリズムを愛するジェームス・キャメロン監督のようなクリエイターもいれば、作品の根底にある萌え要素を重視するオタクまで、ファン層はかなり幅広い。フォトリアリスティック3DCGの導入でセルアニメ調の萌え要素がなくなり、北米のゲーム映像と大差なくなってしまったと不満を表明する人も見かけるが、それでいいと思う。本シリーズが今後ストイックな世界を描いていくためには、活路を求めてNYを捨て去った主人公たちと同様、映像においてもセルアニメ調の表現を《潔く》捨てることが必要だったのだ。'80年代の北米文化の影響下に生まれた原作の時代性をそのままトレースしても意味はないし、萌え要素を強めた前作の路線を踏襲しても新しい価値は生まれなかっただろう。

さて、装い新たに生まれ変わった『アップルシード』だが、今回の3Dライブアニメの演技を及第点とするならば、次の課題はフォトリアリスティックなこの映像に見合うだけのストイックでタフなストーリーの構築だ。『アメリカン・スナイパー』のように、超大国アメリカが「暴力のエスカレーション」と「際限なき力の行使」に自問自答しはじめた今、当然本作の作り手にも「なぜ人類は非核大戦を止められず、今に至ったのか」という問いに対するストイックな回答が求められている。残念ながらTVアニメ1.5話程度の尺で一体の多脚砲台で精一杯だった本リブート作にそこまで掘り下げる余力はなかったようなので、エンドクレジット後の◯◯◯のセリフからも想像されるように、次回作ではその回答がきっちり描かれるものと信じたい。人類最後の楽園オリュンポスに至る道は遠く険しいのだ。

※この“希望の種”が、ジャパニメーションを進化させてゆく一つの“大きな樹”へと育って欲しいとの願いを込めて、星4つの評価とする。

(評価:★4)

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