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[コメント] グラン・トリノ(2008/米)

松明をあなたは受け取ったか?
Orpheus

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







これが本当に最後の出演作になるのか? と毎度ファンをやきもきさせるイーストウッドが匠の技を発揮してサラリと撮りあげた“アメリカ中西部スピリット譚”。東欧移民の老人ウォルト・コワルスキーの一徹すぎる筋の貫き方に、観ている側も思わずググゥ……と唸らされてしまう(新米神父やイタリア系理髪師との絡みなど、近年のイーストウッド作品に失われていたユーモアがたっぷりと顔を覗かせているのも実に嬉しい)。イーストウッドがジョン・ウェインのリバタリアン版のようなタフでストイックな本作を撮ったのは、間違いなくコーエン兄弟の怪作『ノーカントリー』のアントン・シガーに触発されてのことだろう。一分の隙もなく磨きあげられた1972フォード グラン・トリノ。愛する伴侶を失い、犬以外の家族や隣人と距離を置く堅物のコワルスキーにとって、それは唯一の“真の勲章”であり、“息子”であった。ひとつの時代は終わり、松明は形を歪めながらも次の世代へと受け継がれてゆく。老いた巨匠イーストウッドは79の齢にして贖罪をテーマに選んだ。言うまでもなく彼のキャラクターを代表するアイテムといえばS&Wマグナム44であり、本作はハリー・キャラハンのその後の末路を描いたかのような内容になっている。思えば同じく銃と縁の深かったジェームズ・コバーンの遺作『アメリカン・ガン』もまた、やはり銃社会をテーマにした映画であった。血塗られた“開拓の民”を待ち受ける厳しい過酷な運命は舞台がどこであっても永遠に変わらない。そこが西部であろうとサンフランシスコであろうと、あるいは硫黄島や朝鮮半島(そしてイラク、アフガニスタン)であろうとも。

(評価:★5)

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