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[コメント] ハウルの動く城(2004/日)

「ハウル」が問いかけるもの
Orpheus

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「ハウルの動く城」は論理的な映画である。まだ18歳にも関わらず、枯れた老婆のように自分の殻に閉じこもっていたソフィーは、老化の魔法によって相応の姿(90歳の老婆)となったことで、はじめて気兼ねすることなく本来の自分らしさを発揮できるようになる。知恵や忍耐力は突然身についたものではなく、彼女がもともと持っていた資質なのだ。

荒れ地の魔女にかけられた老化の魔法(娘が老婆になるということは、肉体的な若さ=物理的な魅力を奪われることを意味する)は、すでに老婆のような頑な心となっていたソフィーにとっては逆の効果を生む。ハウルやマルクルと出会い、彼らと共に過ごすうちに、ソフィーは自己の存在意義を確立していく。自分に何ができるかを知り、自分の力を信じられるようになった人間が魅力的でないはずがない。はじめは根拠のなかったハウルに対する恋心も確かな愛へと変わり、ソフィーは内面の輝きを完全に取り戻す。その彼女が老化の魔法を打ち破って本来の姿に還るのは、物語の展開としても自然な流れである。

なお、ソフィーの髪の色が元に戻らないのは、老化の魔法が(夢や暗示ではなく)実際に彼女にかけられていた名残りであると同時に、流れ星となって堕ちてきた悪魔カルシファーと少年ハウルの契約の秘密をソフィーが解き明かしたことの証しである(それを「星の光に染まっているね」とさりげなく指摘するハウルもまた心憎い)。

そして最後の「心って、重いの」というソフィーの科白は、もちろん単にハウルに向けられた言葉ではない。かつて彼女自身が自分という殻に閉じこもり、自分の存在の重さ(まさに重い心である)に苦しんだ経験を持ち、ついにそれを乗り越えて発せられた言葉だからこそ、僕ら観客の心に響くのだ。ここまで読み解いてくればもう明らかだと思うが、この映画には、自分の殻に閉じこもりがちな現代人や、あるいは自分の可能性を安易に閉ざしてしまって挑戦しようとしない人々に向けて、そこからの脱出を問う宮崎駿のメッセージがしっかりと込められている。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)寒山拾得[*] [*] tomcot 世界の終わりの果に けにろん[*] アルシュ[*] トシ[*]

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