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[コメント] I am Sam アイ・アム・サム(2001/米)

作為が見えるとそれが気になって楽しめない嫌な私
ぱーこ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







以下個人的な思い入れコメントで失礼します。

以前あるグループ研修を受けた事がある。新聞でも話題になった団体が主催した研修である。4日間朝8時から夜10時まで缶詰になって200人ほどが受けた。費用は9万円。口コミで参加者を集めていたから、一般には知られていない。

これが洗脳システムでその研修に参加することが人生の第一目標になるように組まれている。初級が終わると中級は20万円の合宿研修になる。最後は100万円の上級研修が待っている。アメリカのパワーエリートのために作られたカリキュラムが始まりで様々な人格改変のプログラムがある。そのいくつかは、形を変えてマイルドな形で今も行われている。

会場は窓に目張りをしたビルの1室。照明、音響が巧みにコントロールされて感情を刺激して価値観の入れ替えを行う。参加者は自分の一番弱いところを感情的に揺さぶられ、それまでの自分を捨てることになる。

私は見知らぬメンバーとペアを組まされ指定された課題を行っていた。お互いを母親と思って過去の満たされない思いを訴えなさい、という課題だった。照明は暗くなり、情緒的な音楽が流れる。あちこちですすり泣きがする。集団催眠である。私の相手もこらえきれず嗚咽を漏らし始めた。人間というものは弱いものだ。私も涙ぐみそうになった。その時私は暗くなった会場の隅で照明音響を操作している人影を見たのである。自分の一番弱いところを操作されている!その思いが感情に溺れそうになる私を押しとどめた。私はかろうじて自分を保ったが、それは同時にみじめな自分を認めることだった。つまらない自尊心を維持するより泣きわめいてカタルシスを得た方がどんなに幸せだったか。

この映画を見ていてずっと思い浮かんでいたのはそのことである。現実的な部分はすべてぼかされていて、感情に訴える部分のみが非常にうまくフレームアップされている。

なぜサムがルーシーの父親になったかの経緯が不明。ホームレスの女性との間の子供だと説明はされている。相手は出産した後にサムとルーシーを残してバスに乗り込んでしまう。その描写のおざなりなこと。きちんと描かれているのは、サムとルーシーのみである。その時の音楽の選曲が絶妙。ビートルズの原曲を使わないで、若手を起用した配慮もうまい。著作権の問題があったのかも知れないが、原曲ではビートルズが勝ってしまう。私の場合なら、その当時の自分のエピソードを思い出す。そうでないから、感傷的になるけど、自分の記憶に固執することはない。あざといと言えばあざとい。

サムの友人4人が善良な「障害者」。映画好きや被害妄想家などそろえているが、知的障害のワクに納めている。唯一もののわかった支援者は外出恐怖の隣人である。ミシェルファイファー演ずるすご腕の女弁護士もいかにもアメリカの不幸なエリート家庭崩壊の様相を示している。父親もその愛人もきちんと出てこない。社会正義を代表する検事が黒人。里親になる女性にはなんだかジュリー・アンドリュースのイメージを感じた。『サウンド・オブ・ミュージック』のジュリー。揺れるカメラもサムの動揺を現していて気持ちが落ち着かない。これが止まったところが見せ場だな、と意識させられる。ビートルズナンバーの選曲のしたたかさ。ビートルズの歌詞から脚本を書き始めた、とも思える。映画に入り込もうとすると、私には例の研修の、ものかげで機械を操作していたあの人影がちらつく。その人影はハリウッドそのものと思われた。

ラストも裁判の決着に触れることなく、イメージショットで終わらせている。現実的な制約を離れて描きたい主題を全面に押し出したものをファンタジーと呼ぶなら、これはまぎれもなくファンタジーである。ファンタジーならファンタジーの制約があるはずだ。それが私にはわからなかった。

ショーンペンは名演。ダコタ・ファニングにはかわいさを通り越してぞくぞくする女の色気を感じてしまった。ミシェル・ファイファーが「君には感情がない」の言葉に触発されて自分の窮状を訴えるところでは涙ぐみそうになった。その後の2人が会う場面でハリウッドの中途半端な作為を感じて入り込めない。2人は寝たのだろうか?そこをぼかしたのは賢明だが、ミシェル・ファイファーが他人行儀にとまどう演技は蛇足だと思った。 里親がサムにルーシーを返すシーンにアメリカの価値観(正直)を感じて、ここだけは感動した。

いままで我慢してきたビートルズの全曲CDをいよいよ購入するか、と思ったことが私の収穫だった。

(評価:★3)

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