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[コメント] 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け(1976/日)

倫理と人情
ぱーこ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







倫理はニンベンあるごとく人に関する善悪の判断である。このシリーズの登場人物は感情的な人間が多い。主人公寅はもちろん、タコ社長、おいちゃん、おばちゃん、そして今回の芸者ぼたん。よく笑いよく泣き、今回はよく怒る。人間関係に関わる感情を人情という。物事の判断に人情が正しいというのがこのシリーズの主張である。今回はそのドラマがうまく機能したと思う。

200万騙し取られたぼたんに同情する寅。その本気の同情を聞いてぼたんの気持ちはすでに解決している。しかし寅はそのことを知らない。寅の解決策は情をかけた日本画大家に一肌脱いでもらって、ぼたんを救うことにある。しかしこの人情は成立しない。仕事だから気持ちだけで絵を描くわけにはいかない、と断られる。ぼたんは寅に会わずに帰省する。見ている方としては、寅の感情が未解決ではなはだ居心地が悪い。人情は正義じゃないのか。

それが最後に解決する。これも不自然ではない終わり方だ。やはり人情は正しかった。感情面が解決すればすべて事はよし、と気持ちの上では思う。だが待てよ。悪は何も制裁を受けていない。200万は戻ってこない。お互い所帯を持つと気持ちの上で宣言しているが、事実としては成立しない。なんだか騙された気がする。そこで冒頭の夢のシーンが生きてくる。恐ろしい悪ジョーズにさくらは狂人と化し源公は下半身食いちぎられているではないか。そして寅の命も風前の灯火である。なるほど、夢できちんと悪の勝利を描写してあった。過不足なくよくできたドラマである。と思う。

それにしても奇人変人に変わりはないのに、大学教授に厳しく芸術家にやさしいのは監督が芸術家だからか。寅が奇人変人を評価するのは、大学教授の時は世界各国の屁の言い方と寅の口上までしっているその知識であるが、今回の芸術家の価値はさらりと描いた絵が7万円で売れたことにある。芸術の価値は金で評価されるのだ。人情の専門家である寅に芸術はわからない。映画もまた観客動員数と興行収益で評価されているのだ、という制作側の表明であろうか。

男ははつらいよが、観光資源と化してきたときに、行政側の職員がどう働くか。今回はその描写もあったように思う。理念と現実の狭間をこれまたバランスよく描いた佳作だと思った。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ぽんしゅう[*] 寒山[*]

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