満男と泉の再会物語を流しながら随所に思い出を入れる構成は成功していると思った。しかし過去の場面が随分と力がある。過去の場面が挟まれる前に、次に何がくるか予想して、やはりそう来たか、と思いながら見ていた。メロン事件は当然出てくるでしょ。音楽の付け方が初期の大林宣彦に似ているところが何箇所かあって、センチメンタルこの上ない。浅丘、夏木は流石に女優だが、ゴクミは若さを過ぎればただの美人。満男の妻が亡くなっていると知って、そういうことを言わない満男に惚れ直しても、口づけ２回はやりすぎだろ。

企画モノなので、単体の映画としてみるとあちこち無理が目立った。満男の娘ができすぎていて不気味。そのくせ体はしっかり女。冒頭の桑田の歌と姿は不要。渥美を出すわけにいかない工夫だが寅映画を壊している。橋爪はうまいが気心の知れた俳優の使い回し（やすらぎの刻も同様）も映画を壊す。幽霊のように出てくる寅のシーンは不要。これが横尾忠則のアイディアなのか。晩節を穢したのは、横尾忠則の方だと思う。この程度のアイディアは横尾さんでなくても思いつくだろう。初めからアイディアもらいましたと言い出さなかった山田洋次も気を使い過ぎだが、そのことを面と向かって言えない横尾忠則も随分と幼児性が強いといえる。才能のある人にありがちなキャラクターである。

新宿ピカデリー場内は年配者が多かった。男性はビールを持ち込んでの鑑賞者が何人もいた。途中３回中座した方がいた。全盲の人が見に来ていたのは驚いた。映画が終わって忘れ物が多いので、気をつけてくれというお姉さんが東南アジアの方だった。映画の外はしっかり俗世間だった。