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[コメント] 駅馬車(1939/米)

最近邦画ばかりを観ていたので、アメリカの広大な土地をフルに活用した奥行き感がまず衝撃でした。
づん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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黒澤監督が大好きだったと本で読んだので、思わず手を出してしまったジョン・フォード監督作品。この監督の作品を初めて観たのですが、なるほど、黒澤映画がチラつきます。黒澤監督がかなりの影響を受けたであろう事が、1本観ただけで容易に分かりました。

で、作品なんですが。まずアメリカという土地の広大さを嫌というほど感じました。苦労しなくても画面に奥行きを持たせられるし、空もまた広い!その開放感と言ったら半端ではなく、対照的な駅馬車の狭苦しい空間がまた活きる!その対比を繰り返す事で、ストーリーに緩急をつけ、スピード感も出ていたと思います。

キャラクターも多く、最初は全員覚えられるか不安でしたが、全く問題なし。一人一人キャラが立っており、個性も強く、不要だと思える人物が皆無だった事も素晴らしい。そしてこの短い時間の中に全ての娯楽要素を詰め込み、それでも煩くならなかった事には驚きますが、やはり私は恋愛要素は不要だったのではないかなーと思います。娼婦のダラスに皆が冷たく接するのに対し、キッドが貴婦人と対等の扱いをしたシーンで、私は一瞬にしてキッドに心奪われてしまったんですが、結局キッドは彼女を女として見ていたからああいう態度を取ったんだと分かった途端、彼の人間的魅力が一瞬にして泡のように消え去ってしまいました。日本人とアメリカ人の違いもあるかも知れませんが、やっぱり私は、男性としての魅力よりも先に、人間として魅力ある人に惹かれるなぁ。だからこそ三船敏郎は黒澤さんのもとで最大限の魅力を発揮出来たんだと思うし。また、その恋愛要素を省いてしまえば、アパッチ族襲撃シーンがとりわけ効いていたと思う。ラストの対決は正直蛇足に感じたし、アパッチ襲撃に較べればやはり霞んでみえる。

この作品で私的に最も光に満ちていたシーンは、ダラスが生まれてきた赤ん坊を抱えて部屋から出てきたところ。男達が怯えながらも興奮した様子で二人を囲むシーンはとても神々しい。カメラは男達の後ろ姿を捉えていたんだけれども、彼らの表情がまるで見て取れる感じ。生まれおちたばかりの赤ん坊の前では、商人も賭博師も娼婦も保安官も、脱獄囚でさえ、ただの人となっていた気がします。インディアンに対する差別的な描写は気になるところですが、別のところでは人は皆平等であると説いているような風にも見て取れるなぁと私は思いました。

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○独り言

聞くところによると、フォード一家なるものがあるようで。今現在はジョン・ウェインしか識別出来てないんですが、今後作品を観ていくにつれ、見知った顔ぶれが増えていくのかと思うと、それもちょっと楽しみです。そういや志村喬さんを判別出来るようになったのも、黒澤作品を数本観てからだったなぁ。改めて『隠し砦の三悪人』や『椿三十郎』を観た時に、ああ、こんなところに志村さん!て感激したものです。

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08.11.07 記

(評価:★4)

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