とにかく「水」という冷たく硬いモチーフに、ここまで体内のような温かみを持たせた映像が素晴らしい。思い出を遡るという行為が、羊水レベルにまで達しているような感覚さえ覚えます。

私はまだ結婚もしていないので、子供どころか伴侶さえいませんが、いつか両親が積み上げたつみきのいえを後にし、新たにつみきを積み上げるように、誰かと人生を共にして、そして思い出を水没させながら生きていくんだと、強く感じました。つみきというアイデアと、思い出を水没させる事により、戻れない過去を表現した事にとても感心したし、心打たれました。まさにアイデアの勝利だと思います。告白すると、パイプを拾い上げた瞬間、じいさんの血がドクっと波打ったあのシーンから、私はとうとう最後まで涙が止まらんかったですよ。

また、人生の春とも思える青年期が水底に沈んでいて、老いれば老いるほど上に昇るというのも逆転の発想で面白い。今ここにいる自分が深い水の底に沈んだ時、どんなつみきのいえが出来上がっているんだろうと思ったし、人生の儚さ、辛さ、そして面白さと美しさを、こんな短い時間で見事に表現したこの作品は素晴らしいと思いました。小津テイストすら感じました。日本ならではの繊細な感覚を持った作品と思います。

一方では環境破壊を訴えるテーマとして評価されている部分があるかも知れないけれども、私は純粋に斬新なアイデアと、日本の心を持つ作品として賞賛したい。

ちなみに私はやっぱりナレーションはない方が良かったけれども、子供が観る事を考えればナレーション付きバージョンがあってもいいと思います。透明感のある良い声だと思いました。

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09.04.28記（09.04.20DVD鑑賞）