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[コメント] 蒲田前奏曲(2020/日)

失礼ながら知名度が高いとはいえない松林うららという役者さんが、自分が出演するために自ら制作したそうだ。単館一館とはいえレイトショー扱いされることもなく公開されると知ってすぐ観に行った。こんなあまたの″小さな力”が日本映画界を支えているのだ。
ぽんしゅう

私、こういう意欲的な企画が大好きです。起用された4人の監督のうち知っていたのは中川龍太郎だけ。伊藤沙莉は今年ブレイク中。瀧内公美の出演作は立て続けに5本観ている。和田光沙さんは、あの『岬の兄妹』の主演女優だ。福田麻由子って聞いたことあるなと思ったら、むかし『Little DJ 小さな恋の物語』という映画を観てがっかりした人だ。

●第一話:蒲田哀歌 (中川龍太郎)・・・★★★★

すでに高い評価を得つつある中川龍太郎監督らしく、多様で繊細な“人の思い”が混在する詩情豊かな好篇。『わたしは光をにぎっている』のときにも感じたが「街」に向けられる中川監督の視線は優しく深い。深さとは「街」に流れた時間であり歴史。つまり過去から人の連なり。ところで、弟君の行方は、何処へ?

●第二話:呑川ラプソディ (穐山茉由)・・・★★

前半の、着飾った女たちが街を一望できるビルの屋上に集う、というアイディアに期待が膨らむが、その後の展開は定番すぎてあまりにも安易。しかも、定番には過去の傑作のとおり「定番」ならではの高度な演出テクニックが必要なのだが、それが皆無。物語はリズムを失い空中分解。気鋭の伊藤沙莉も霞む。

●第三話:行き止まりの人々 (安川有果)・・・★★★

女優の黒川(瀧内公美)の苛立ちの原因は業界不信。蒲田マチ子(松林うらら)が受けたのはセカンドセクハラ。そこに問題の奥深さを見る、ということでしょうか。セクハラ告発ものを観るたびに、男の私は過去の自らの“鈍感さ”を思い出し恥じ入るとともに、いまだ指摘されざる無意識の“鈍感”の可能性に気が重くなるのです。

●第四話:シーカランスどこへ行く (渡辺紘文)・・・★★★★

監督の渡辺紘文は栃木県大田原を拠点に映画を撮っているのだそうだ。固定されたモノクロ映像と飄々とした語り口に作者の“頑固”さが滲み、とても味わい深く微笑ましい。作中で語られる長い長い東京批判の先には、きっと既存の映画システムへの、語り尽くせぬ思いがあるのだろう。他の監督作もぜひ観てみたいと思った。

(評価:★4)

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