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[コメント] メランコリック(2018/日)

ぜんぜんリアルな設定じゃないのに、なぜか若者たちの言動がリアルに見える。彼らは、どんなヤバイことになっても愚痴もこぼさず、まして芝居がかって泣いたり叫んだりせず、その状況を「拒否」も「否定」もしない。停滞はしているが後退はしないということだ。
ぽんしゅう

若者たちは、オールド世代の理屈としがらみで凝り固まった、とんでもない既存システムに組み込まれつつも、その状況を「お仕事ですから」と従順に、むしろ自ら進んで“やりがい”を見い出し嬉々として消化しいく。

ところが、彼らの「拒否」も「否定」もしないという姿勢は、ひとたび、彼らの誠実を否定する不誠実に直面し、一瞬にして状況が逆ベクトルを得たとたん、いっぱいいっぱいに巻き上げらえた逆バネが弾けるように炸裂し、既存システムをあっけなく破壊してしまう。

そこに、オールド世代の既得権益と、同世代の連帯を分断する社会的格差を、自分たちの痛みとして具現化しない方便として“やさしさ”にすがってきた今の若者たちの、生存本能の物語化としての「ファンタジー」をみたような気がした。この荒唐無稽な映画が不思議なリアル感を醸し出すのはそのためだと思う。

もうひとつ、制作側がどこまで計算していたかは分かりませんが、主人公の家族が作りだす緩い輪の緊張感のなさが、このところ流行の“きずな至上家族”が、半ば強制的に蔓延させている「胡散臭い感動」と「空疎な感謝」を、ゆるーくゆるーく嘲笑う皮肉にみえてとても心地がよかったです。

ところが、そんな“やさしさ”や“きづな”からのエスケープは、ちょっと化粧を直して“優しさ”と“絆”へ帰結してしまったようにみえました。みなさん、本当に「今が楽しく、充実してさえいればいい」のでしょうか。まだまだ、あわてて結論なんて出さなくていいんだと思います。

先が見えない展開と、登場人物の心の機微をさりげなく描く手腕は素晴らしく、次回作も大いに期待しています。田中征爾皆川暢二磯崎義和と映画製作ユニット One Gooseの名前はしっかりと記憶しました。

余談です。舞台の町の「猫実五丁目」って浦安市に実在する町で「ねこざね」って読むんですね。知りませんでした。またひとつ賢くなった気分です。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)クワドラAS[*] ぱーこ[*]

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