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[コメント] タクシー運転手 約束は海を越えて(2017/韓国)

コトを思いどうり進めたいから嘘と秘密にまみれるのが権力者。陰で文句は言うが、表だってはコトをやり過ごすこのタクシー運転手に代表される小市民とは、私(もしかして貴方も?)のこと。両者が浸る自堕落な「平穏」を乱そうとする“お節介者”がジャーナリスト。
ぽんしゅう

ともすると、長いもの巻かれて済まそうとする者たちへの警鐘に富んだ話だ。小市民が小市民でいる限り、本作の光州事件や天安門事件のように「血が流れる事態」が起きても気づかない。いや、小市民でいつづけた結果、いつか「血が流れる事態」が起きてしまうのでしょう。そのためにも“お節介者”は必要だし、自らも進んで“自堕落”ではなくお節介の先の「平穏」を意識していたいと思います。

壮絶な弾圧シーンの後、主人公の行動原理が結論ありきのご都合主義にみえはじめ、あの「トラック野郎」シリーズまがいの暴走シーンに至っては、人権や生命にかかわるテーマの深刻さと相反してとても違和感を持ちました。コトを真剣に考えようとしない小市民への過剰な(あるいは中途半端な)サービスであり、裏返せば制作者の逆権威主義的な上から目線の表れにもみえたからだと思います。

これは、制作者が小市民(私)を信用していないことに起因した、小市民に対する「甘やかし」でしかありません。深刻なテーマを扱うならもっと、シリアスなら非情に、コメディなら挑発に、アナーキーなら凶暴に徹して欲しい。そうしないと、本作の「警鐘」はすぐに鳴りやんで、権力の嘘や秘密がふりまく自堕落な「平穏」の誘惑に、私は負けてしまいそうです。

せっかくの「警鐘」は耳障りな「ざわつき」となっていつまでも残り続けないと、もったいないと思います。

(評価:★3)

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