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[コメント] スリー・ビルボード(2017/米=英)

感情的でエキセントリックな怒りに支配されている者こそ、実はどうしようもなく繊細な心情の持ち主だという矛盾。世の中の多くの“こじれ”の根っこは、この人間的な弱さが生む矛盾につながっていくのだ。実に志が高く、かつ正直な憎しみと悲しみについての物語だ。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







世間を敵に回しても譲らない母親ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)の怒りの強硬さは、反抗的だった娘に暴言を吐いてしまった自分の弱さに対する「悲しみ」に根ざしている。公権力を笠に暴力に走る警官ディクソン(サム・ロックウェル)の怒りは、考えることを放棄してしまった自分の弱さに対するコンプレックスにあるのだろう。

いわばミルドレッドの怒りは正の爆発であり、ディクソンの怒りは負の露呈だ。この二人の行動を、私は手放しで支持することはできないが、その怒りの発端に存在する「悲しみ」には共感できる。隣人との諍いから宗教、民族、国家間の紛争にいたるまで、世の中の“こじれ”の根っこには必ず「悲しみ」が存在しているのだと思う。

死を意識した男ウィロビー(ウディ・ハレルソン)の飾らぬ伝言に導かれ、ミルドレッドの「悲しみ」とディクソンの「悲しみ」は、互いも気づかぬうちに不器用に、だが確実に共鳴し始める。共鳴とは共感であり救いである。

(評価:★5)

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