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[コメント] 台北ストーリー(1985/台湾)

重厚な彫刻を施された石造りのレトロな建物が並ぶ廸化街の街並み。疾走するバイクの背後に浮かぶ燃えるような紅い電飾を施された大門。外資のネオンサインの前でシルエットと化す迷子のような男女。都市の風景が醸す時代の記憶は人工的なぶん、いつだって刹那的だ。
ぽんしゅう

男(ホウ・シャオシエン)が家族や縁戚を頼って将来を築こうとしたのは、過去の男たちがみなそうしてきたからであり、自分が過去に囚われているという意識はなかっただろう。女(ツァイ・チン)が新しいビジネス界に生活の糧を得ようとしたのは、まだ自活する女の手本が周りに少なかったからで、特別に気性が先進的だったわけではないだろう。

時代の変わり目に、リアルタイムで遭遇していても、人は、その変化に気づかないものだ。気づいたときには、すでに状況は一変し、変わってしまった事態をただ受け入れるしかなくなっている。そこには、新たな希望が見えるかもしれない。失ったものの大きさに絶望するかもしれない。

変化はいつだって、気づかぬうちに過ぎ去って、結果だけをつきつける。それは「時代」でも、「男女」の関係でも、同じだ。

私は女(ツァイ・チン)と同世代だ。製作時の1980年代半ばにリアルタイムでこの映画を観ていたら、描かれる切なさへの共感の度合いは格段に大きかったと思う。

(評価:★3)

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