コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 沈黙 -サイレンス-(2016/米)

キリスト教を真に解さない私は、古今東西のこの手の映画を観るときは、安らぎを渇望しつつ「神の沈黙」というサディスティックな仕打ちに身も心も呈し、信じることと、疑うことの葛藤に悶え苦しむ、ちょっと変質的な人々のマゾ映画として楽しむようにしています。
ぽんしゅう

そうすると、今回の(私的な)見どころは、複雑に絡み合う二人の魅力的なマゾヒスト対決に尽きるのでした。

ひとりは、絶対的な信仰心を持ちながら、自らの師であるフェレイラ(リーアム・ニーソン)教師の棄教という心の揺れを抱え、虐殺されていく異国の殉教者たちを救えない被虐に苦悶する“正統的真正マゾヒスト”のロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)神父。

もうひとりは、信仰にすがるだげで、いざとなったら神への裏切りを繰り返し、そのたびに告解という必殺技で神父(神)を挑発し、自分の弱さとぶざまな姿を弁解することで無意識のうちに自己陶酔しているかのような面倒くさい“かまってちゃんマゾヒスト”のキチジロー(窪塚洋介)です。

このロドリゴ対キチジローの、相互依存的マゾヒストの壮絶なバトルがもっと観たかった。複雑に絡み合った二人の精神的な嫌悪&救済合戦から見えてくる「人間」の弱さと苦悩。そんな、普遍的な「どうしようもなさ」が見えたとしたら、キリスト教が理解できない私にも、2時間半以上も費やして映画を観た甲斐があっただろうに。

原作を忠実に再現したそうなので、映画的な葛藤演出やクライマックスの作劇は二の次にされてしまったようで、マゾ映画を期待した私にとっては焦点のない総花映画になっていました。もっとも遠藤周作先生はSM小説が書きたかった分けではないのでしょうが。

ということで、紅一点。現世から逃避するようにひたすら天国を夢想することで、心身の苦痛が穏やかな微笑となって表情に貼りついてしまったような小松菜奈ちゃんの“純粋可憐マゾヒスト”ぶりが、今回の私的な映画的快楽ポイントでありました。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (7 人)pori[*] Myrath[*] けにろん[*] もがみがわ[*] 3819695[*] おーい粗茶[*] 週一本[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。