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[コメント] そして父になる(2013/日)

物語の「とりあえずの結末」が提示する「漠然とした次」をみると、血か時間かという問題は現代の価値の不確かさの暗喩であり、是枝裕和の念頭にある命題は「信じていたもの」の揺らぎと、その後に待っている「さすらい」とどう向き合うかということなのだろう。
ぽんしゅう

ただ、是枝監督にとっては不本意だろうが、見ようによっては血か時間かという問題が父親という役割を担わされた男の成長譚に矮小化されて、なにやら結末をごまかされた感じがしてしまうのだ。物語の進行のために巧みに計算された二つの家族のキャラクターや台詞にも、どこか「作りました」感が鼻につくあざとさがある。

良多(福山雅治)の子育てが否定され、雄大(リリー・フランキー)のそれが理想であるかのように見えてしまうのも気になった。少し前、「お金儲けは、そんなに悪いことですか?」とメディアの前でうそぶいた村上某というファンドグループのリーダがいたが、良多(福山)の勝ち組的子育て方針で才能を開花させる子供だっているだろう。とっくの昔に家父長制が崩壊し父親像が多様化しているいま、良多(福山)と雄大(リリー・フランキー)の子育てに本当に優劣がつけられるだろうか。

もうひとつ、ないがしろにされた一部の言葉づかいが気になって物語に集中できなかった。群馬在住だという雄大(リリー・フランキー)が使う奇妙な(関西風? いったいどこの方言だ)の言葉が気になってしかたなかった。挙句にその父親に育てられた群馬の少年も、何故かバリバリの関西弁を使うのにはあきれてしまった。言葉はその人物の背景として、生活、性格、歴史、さらには思考や思想を規定する重要なファクターだ。近作では『共喰い』の下関弁、『恋の渦』の若者言葉、『ゼンタイ』の日常語がいかに作品の核心に影響していたかをみれば、その重要性はあきらかだろう。

完成度の高さを感じさせながら、何かと破綻が目立つ「おしい」映画だった。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)ペンクロフ[*] disjunctive[*] おーい粗茶[*] 緑雨[*]

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