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[コメント] 孤高のメス(2010/日)

何にも毒されぬ清らかさに満ちている。当麻(堤真一)は職務への、浪子(夏川結衣)は想いへの、武井(余貴美子)は願いへの従順を貫く。偉業への挑戦は爽快を生むが、職務や思いへの忠実さには清廉が滲む。そして、本当に賞賛すべきことの本質が垣間見える。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







女手ひとつで一人息子を育てる小学校教諭、武井(余貴美子)。彼女が襲われた不幸な境遇と、彼女の悲壮な思いの前に立ちはだかる障害をみながら、本作に先立って観た『告白』(原作:湊かなえ、監督:中島哲也)の主人公森口(松たか子)を思い出していた。彼女もまシングルマザーの教師であり、原因は異なるが武井(余貴美子)と同じ不幸に見舞われる。

不幸から脱却するために、武井は「献身=正」、森口は「復讐=負」というまったく逆の方法を選択し、映画(物語)は両極の様相をていする。両者の心情と行動は、人間が持ち得る感情の発露として良し悪しの問題を超えて私にも充分に理解できる。しかし、彼女たちの思いの前に立ちはだかったのは、奇しくも脳死(=生命倫理)をめぐる「臓器移植法」と、子供に罰を科すことのできない「少年法」という同じ法律の壁だった。

水と油のような展開を見せる映画(原作小説)ではあるが問題の本質が突き当たる先は、本来人の幸福を守るべく制定された法律が、人の極限の思いの達成を妨げるという息苦しい矛盾だ。この二つの映画(二人の女教師)の「相違」と「類似」によって、人間個人としての思いと集団生活者としての折り合いの危うさが、より鮮明にあぶりだされている。そんなことに思いがめぐるのだった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)tkcrows[*] けにろん[*] セント[*]

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