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[コメント] アキレスと亀(2008/日)

成功しようがしまいが、ゲイジュツなどしょせん甘ったれどもの極私的所業であり、その持続が許されるだけで幸福であるということ。そして、必ずしも一途さは歳を重ねることで失われる分けではないが、歳月や鍛錬がオリジナリティを生むわけでもないということ。
ぽんしゅう

つまりは北野武が、自らのあり方を再確認するための三作目の映画。

おそらく前二作『TAKESHIS’』と『監督・ばんざい!』も、同じテーマを持って望んだ作品だったのだろう。何故なら両作品とも、良くも悪くも「甘ったれた私的所業」で貫かれた北野ならではのオリジナリティにあふれた映画だったではないか。

「TAKESHIS’」の主役は自分と瓜二つの人気タレントとの同化を試みるエキストラ俳優であり、「監督・ばんざい! 」の主役は一旦は成功を手に入れたものの才能が枯渇してしまった映画監督である。みな、あまりにも北野本人との距離のない男たちであり、そこでは暴力や虚無や笑いといった北野のオリジナリティは、痛々しいまでの過剰さとなって表出していた。

しかし本作は、前二作とは主題との距離のとり方が違う。同じ表現者でも画家という設定にすることで、北野自身と真知寿(ビートたけし)と創作活動という三者の関係に心的距離のゆとりが存在する。さらに、少年期、青年期、壮年期という三代記の物語構成によって時間の経過と空間的距離というゆとりも存在している。

この、ゆとりの存在が、前二作の切羽詰った虚無や、呆れるほどの投げやりさといった好悪を選ぶ映画の暴走ぶりに比べて、見る側を安心させる映画的な余裕となって伝わってきた。この三作を経過して、北野武は次の映画づくりの方向性をたぐり寄せたかのように見える。少しオマケで4点。

夫を信じ、馬鹿げた共犯に真剣に興じる樋口可南子の表情や所作が不気味で素敵だった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (9 人)緑雨[*] ゆーこ and One thing[*] NOM 煽尼采[*] ペペロンチーノ[*] サイモン64[*] おーい粗茶[*] 3819695[*] セント[*]

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