[コメント] つぐない(2007/英)
豪邸内での心地よい緊張感が、戦争という人知の及ばぬ世界へと移行するにしたがってズルズルと弛緩し始め、積年のドラマも終わってみれば「ああ、そうですか」の感想が残るだけ。きっと画面から伝わる人間関係の「疎」と「密」と「過密」のバランスが悪いからだ。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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言うまでもなく前半の巨大な豪邸と広大な自然に溢れた敷地内で、ロモーラ・ガライを中心に引き起こされる事件のパートが「疎」だ。ここでは、本来は密であるはずの親類関係にある人びとが、そのあまりの広さを持て余すかのように漂わせる不安定で、空疎な不穏さが素晴しい。そして「過密」とは、水際に追い詰められ、秩序をなくした蟻の大群のようにフランスの海岸に蠢く、兵士たちのワンショット描写だ。この人間たちの密度の濃さは、前半の牧歌的空間で繰り広げられる不穏さの対極に位置する群集の不穏さであり、いずれも人間が生み出す不穏描写として注目に値するものであった。
それにくらべて、「密」の部分が非力すぎた。それは、ロンドンにおけるキーラ・ナイトレイとジェームズ・マカヴォイの交流であり、姉の後を追ってロンドンへ出てきたロモーラ・ガライのパートの病院生活のことだ。本来は、この部分での鍵となるべき、そしてドラマの終幕の伏線となるべき、姉と恋人と妹の物理的距離を越えた想いの密度がいっこうに伝わってこなかった。それは、重症を負った瀕死の兵士たちが次々とかつぎこまれ、ロモーラ・ガライがフランス語を駆使して傷ついた若い兵士としばしの交流を行うというパートが、何の感慨も生まずただ垂れ流されたことに端的に表れている。
傑作、いや、佳作には充分なり得た内容だけに惜しい。
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