コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 知りすぎていた男(1956/米)

ヒッチが描く世界に現実味は薄いが、映画ならではのリアルに溢れている。だから好き。
モモ★ラッチ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







オープニング

いきなりオープニングからオーケストラの演奏。「たった一つのシンバルの音がアメリカ人一家の運命を揺さぶった」

映画に限らず何事も、最初が肝心。

背景

舞台がモロッコで始まるという設定である分エキゾチックな面も発揮されているが、そこはリメイクならではのオリジナリティを出そうとしてのことであまり意味はない。

主人公の性格やバックグラウンドはヒッチ映画では必ずしも重要ではない。災難に巻き込まれる主人公が極めて普通な印象を受けるためすんなり感情移入できる。そして彼らの背景(私生活など)を極力描かないことで緊張感が解けない。あまりにも多くのものを詰め込んでしまうと散漫になってしまうことをヒッチは知っているから。まさしくsimple is best.

キャスティング

ジェイムズ・スチュアートケイリー・グラントを好んで使ったのはやはりイメージにぴったりだったからだと思う。何を考えているのか分からないにやけ顔、重いシーンを軽くしてくれるグラント、一方でジミーは信念を持った正義感、彼の目の演技はホント素晴らしい。一方女性は美女好き。そういった意味でドリス・デイは異色中の異色。キャスティング自体がストーリーの伏線になっている。そして彼女に「ケ・セラ・セラ」を歌わせたりして、「音楽」に重点を当てることでオリジナルとの違いを出そうとしたよう。

映画はテクニック

バスのシーンで自分の素性を隠したがる怪しげなルイ・ベルナールを登場させる。彼は何者か、興味をそそられる。巧みだ。

ベンとジョーがルイと一杯やっているところで部屋を間違えたという怪しげな闖入者。その際の怪しげさを醸し出すテクニック。暗闇からぼっと幽霊でも出てくるかのごとく顔が現れ、それをカメラがアップで捕らえる。アップで映し出された男の表情がいかにも悪人面、オマケに顔長すぎ。何かないわけがない。その少し前にルームサービスがやってきたときに見せるルイのしぐさが伏線になっており、抜かりはない。

誘拐を知らせる電話のシーン。そのドンらしき人物の後姿のあとに受話器のアップ。それから当惑気味のベンのアップ。彼の苛立ちを示すかのような手のアップ。これは常套手段だが登場人物の心理を表す手法としてアップは欠かせない。

逆に俯瞰ショットもある。ロンドンに戻っての電話のシーン。これは突き放した印象が発揮され、夫婦の置かれた状況を端的に表現する。

市場見物のシーン。そこではナイフを刺された男の後姿を追うことで生理的な痛さを与えてくれる。

そしてなんと言っても圧巻なのはアルバート・ホールでのシーン。こちらまでコンサートを見ているような気にさせてくれるカメラ。それはやがてコンサートに悦に入っている観客と殺人計画を知っているジョーとの対比に移行する。そのシーンは細かいカット割りと音楽だけで焦燥感をあおり、緊迫感を高める。

ヒッチは気合を入れて撮るところとそうでないところの撮り分けが分かりやすい。

スリルのあとには笑いあり

レストランでの食事のシーン、サスペンスの中の息抜き。これはヒッチが常々意識していること。息抜きがあるからこそスリルを味わったときの爽快感も格別。特に剥製屋アンブローズ・チャペルのシーンは出色。間違えられた男がいかにも悪そうな人相なので絶対そうだと思っていたら勘違い。ほとんどスラップスティック・コメディ。

印象的な小道具

これもヒッチ映画では欠かせない。

ここでは、電話。何度使われたことか。

スクリーン・プロセス

一目で分かるスクリーン・プロセスも今観るととても新鮮。

話の骨格

首相暗殺だがいわゆるマクガフィン(話を面白くするためのツール)て奴。意味はない、と言うより何でもいい。

警察に対する不信

小さいころ警官に連れて行かれ留置所に連れて行かれた。そのころから警官は自分にとって恐ろしい存在であるとヒッチは語っているが、彼の性格から押して全面的に信じる気にはなれない。むしろ警察を介入させないことが話が広がらず、面白いためとも思える。

最後に

ラストの唐突さはもう笑っちゃいますね。

マッケンナ夫妻の友達はすっぽかされても観客のハートは鷲掴みかみにしました。

とまあつらつらと長ったらしく書きましたが、要に僕はヒッチコック映画が好きなんです。それさえ理解していただけたら本望です。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (10 人)赤い戦車[*] 緑雨[*] けにろん[*] t3b[*] RED DANCER[*] あき♪[*] tat ペペロンチーノ[*] KADAGIO[*] ina

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。